イスラム評論家
ジャーナリスト
フマユン・A・ムガール
プロフィール
1961年生まれ。パキスタン出身。イスラマバード大学日本語専攻卒業後、パキスタンの日本大使館、外務省などで通訳に従事。九州大学に留学し心理学を専攻。現在は福岡市でイスラム文化研究会を主宰。2017年からパキスタン国営テレビのPTV News(英語版)海外特派員。
アメリカとイランの緊張関係が高まる中、日本はアジアのリーダーとしてイスラム諸国に対して何ができるのか。
在日30年以上のイスラム評論家であるフマユン・ムガール氏に、パキスタンをはじめとするイスラム諸国情勢や、日本が果たすべき役割について聞いた。
アメリカとイランの緊張関係をどう見るか
──緊迫しているアメリカとイランの関係について、パキスタンはどのように見ているのでしょうか?
パキスタンとしては、イランやサウジアラビアなどはイスラム国家ですから、両方とも友達です。一方で、パキスタンはアメリカと同盟関係にあります。アメリカの味方をしながら、イスラム諸国とも上手に付き合っていく必要があって、非常にデリケートな立場にあります。
──核を保有するパキスタンと、イランの間で連携する動きはあるのでしょうか?
パキスタンはイランとは協力しないと思います。なぜなら、イスラム教のスンニ派であるパキスタンと、シーア派のイランとは思想が違うからです。スンニ派であるサウジアラビアとなら協力する可能性があります。
印パ対立と日本への期待
──パキスタンとインドの関係も複雑です。今後、両国の関係はどうなっていくでしょうか。
これもまた宗教の問題です。言葉や食文化など、あらゆるものが一緒ですが、インドはヒンズー教で、パキスタンはイスラム教ということで宗教思想だけが違います。
過去にインドはパキスタンを数回侵略し、インドは1974年に核を持ったので、パキスタンも自衛のために核を持ちました。
その後、50年以上も戦争状態が続きました。しかし今、パキスタンのイムラン・カーン首相はインドで人気があります。両国はかなり仲良くなってきました。
インドから見たパキスタンは、中国から見た台湾に似ています。中国は台湾を国として認めていないのと同様に、インドもパキスタンを認めていないのです。
──中国は「一帯一路」政策の一環で、パキスタンに(ホルムズ海峡に近い)グワダル港の43年間の租借を認めさせました。
パキスタンは独立以来、インドから何度か侵略されましたが、その時に全面的に助けてくれたのは中国軍でした。中国がバックにいれば、インドはパキスタンに手を出せません。また、中国はこれまで何十年にもわたってパキスタンのインフラ整備をしてくれました。このように、パキスタンには、軍事や経済面で中国と切っても切れない関係があるのです。
イスラム諸国から日本への期待
──アメリカとイランの橋渡しを目的とした安倍晋三首相のイラン訪問中に、ホルムズ海峡でタンカーの爆破事件がありました。
日本の役割は大きいと思います。なぜなら、アメリカのこれまでの中東政策に対して、イスラム諸国は警戒感を持っているからです。イラク戦争当時、アメリカはイランを味方につけて、イラクのサダム・フセインを処刑しました。しかし今、アメリカとイランは対立しています。アメリカは手の平を返す可能性があるのです。
日本は、インドやパキスタン、そしてイランとも仲が良く、中東のどの国からも恨みを買っていません。中東諸国から非常に尊敬されています。
中東のすべての国々に対して、日本から相当な金額のODA支援が入っています。この「ODA」は、「O(お金)・D(だけ)・A(あげる)」状態です。これをやめて、アジアの中で政治的なリーダーシップを発揮するべきだと思うのです。
カシミール地方は、北朝鮮と韓国でいう38度線のような場所です。そこに安倍首相が行って、停戦ラインで印パ両首脳と対話をするのです。先日のトランプ大統領が、38度線で行ったことと同じです。インドとパキスタンの両国だけではこうしたことはできません。しかし、日本なら仲裁できると思います。双方と仲がいいのですから。
マララ氏は首相になる可能性も
──女性の教育を受ける権利の拡大を訴えて、ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんは日本でも有名です。
彼女は「パキスタンの顔」です。「学生の分際で偉そうなことを言っている」と反対する人もいますが、彼女の知的レベルは非常に高いと思います。
とても優れた家庭に生まれて、神様から与えられたミッションを忠実に実行しているのだと思います。パキスタンでは今「活躍する女性」が増えています。かつてはベーナズィール・ブットーという女性首相も誕生し、有名になりました。マララさんも将来の首相になる可能性が高いので、期待しています。
(国際政治局 吉井利光)
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