2018年9月、河北省の地下教会の前に掲げられた中国の国旗。写真:ロイター/ アフロ

2019年2月号記事

中国宗教弾圧ルポ

取材相手の牧師が逮捕

敗れざる信仰者たち

最悪の宗教弾圧が行われている中国で、命をかけて信仰を貫く人々の生き方に迫った。

(編集部 小林真由美)

中国ではすべての宗教や信者が、警察当局による厳しい罰則や残忍な拷問の対象になっている。編集部が取材を進めていた最中にも、その深刻さを実感させられる事件が起きた―。

当局の弾圧を告発する教会

秋雨聖約教会の王怡牧師。

同教会の支部で聖書を学ぶ信者。

(写真:チャイナ・エイド提供)

編集部は今秋、中国で弾圧を受けるキリスト教会を探していた。関係者から教会の名前は挙がるものの、牧師自らが実名を公表して詳細を語るケースは極めて少なかった。だが、四川省・成都にある地下教会「秋雨聖約教会」は、日常的に警察から受ける嫌がらせについて、SNSで写真とともに投稿していた。

この地下教会は、代表の王怡牧師が2005年に自宅で聖書学習会を始めたのをきっかけに開設された。毎週日曜の礼拝や聖書学習会などに加え、毎年6月に天安門事件の犠牲者のための特別祈祷会などを開いている。

王牧師たちは、警察からさまざまな嫌がらせを受けても、日曜礼拝などの活動を止めない。

王牧師は9月、116人の牧師の署名を集め、政府に共同声明を提出。その中で弾圧について「職権乱用だ。信教の自由と良心の自由を侵害し、法の支配を破るものである」と批判した。

中国の宗教弾圧の実態に詳しい米人権団体「チャイナ・エイド」のボブ・フー牧師は、本誌の取材に次のようなアドバイスをくれた。

「多くの牧師は当局からの攻撃を恐れ、実態を語りません。ただ一人、王怡牧師なら、きっと話してくれるでしょう。『最後の砦』のような人です」

王牧師は、牧師になる前は成都大学所属の法学者で、共産党一党独裁への抵抗を提唱した著名な知識人だ。2004年には、「中国で最も影響力のある50人の公共知識人」にも選ばれた。

ノーベル平和賞を受賞した故・劉暁波氏が08年に中国の民主化を訴える「08憲章」を発表した際、王牧師も連名で支持した。

衝撃の事実に言葉を失う

2018年10月、駅前で布教していた同教会の信徒20人が当局に連行された。

(写真:チャイナ・エイド提供)

編集部は妻の蒋蓉さんや教会の信者を通して王牧師への取材を試みたが、約1カ月半待っても、王牧師とは連絡がつかなかった。

12月9日、王牧師と連絡がつかないことを相談すると、フー牧師は沈痛な声でこう告げた。

「実は、王牧師と奥さんは、数時間前に警察に逮捕されました。日曜礼拝の後、大勢の警察が教会に奇襲をかけた。完全に"計画的な犯行"でした。教会信者も大勢逮捕されています」

当日逮捕された人は100人以上。その後も逮捕や取り調べが少なくとも4日間続き、逮捕者は増える一方だという。

日曜礼拝の参加者だけでなく、過去に参加したことがある信者の自宅にまで警察が訪れ、次々と連行していった。最初の大量逮捕を免れた信者は、身を隠しながら、SNSで「今この瞬間も、警察の車が教会の前に来て、物資を押収している」などと、リアルタイムで被害を訴え続けた。

危険が迫る中、情報を流し続けていた教会リーダーの一人も、「私も見つかってしまったようだ」と投稿し、更新が途絶えた。

今回の大規模な弾圧は、皮肉にも、国連で「世界人権宣言」が採択されてから70年目の「世界人権の日(12月10日)」を迎える直前に始まった。現在進行形の弾圧を前に、言葉を失った。

次ページからのポイント

チャイナ・エイド代表 ボブ・フー氏インタビュー

新疆ウイグル出身者に聞いた収容所の実態

CESNUR理事長 マッシモ・イントロヴィーネ氏インタビュー

ORLIR代表 ロシータ・ソリーテ氏インタビュー

国家、民族の違いを超える地球的な信仰とは