《本記事のポイント》
- 電気料金の値上げで、毎月300万円の利益が吹き飛んだ
- 電気料金の値上げで、産業の担い手が減っていく
- 電気料金の値上げで、社員の給料も上がらない
東日本大震災が東北を襲った3月11日から7年が過ぎた。
今も多くの人が故郷に戻れない生活を余儀なくされているが、原発も大半が停止状態にあり、再稼働しているのは5基にとどまる。立憲民主党ら野党4党はこのほど、「原発ゼロ法案」を衆院に提出したが、もし施行されれば、電気料金の値上げは避けられない。
電気料金が上がり、利益が吹き飛ぶ
「原発が止まり、電気代が上がった。生活への打撃は……思ったよりも小さかった?」
そんな記者の"実感"は、あまりにも甘かった。電気代の値上げで、倒産寸前まで追い詰められている人たちがいる。
記者が向かったのは、埼玉県・川口市のある鋳造業者。創業50年余りで、自動車部品などをつくっている。作業服で出迎えてくれた社長のAさんが、嘆く。
ある日、電力会社から「電気代値上げ」を書面で告げられた。
「もう『えらいこっちゃ』でした」
鋳造業では、電気を使った「電気炉」で鉄を溶かし、型に流す。製造コストに占める電気代は、17~20%もある。電気代の増加分を計算すると、「毎月300万円」。あっという間に、利益が吹き飛ぶ額だった。
値上げも赤字も許されない
Aさんに製品の値上げをするという選択肢も、交渉力もない。取引しているメーカーには、「お宅で無理なら、他に持っていきますよ」と、冷たく言われた。
普段でさえ、毎年3%、数年ごとに20%の値下げを要求されている。純利益が、売り上げの2%しかないにもかかわらずだ。それでも仕事をつなぐため、赤字覚悟の見積書をつくって持って行くしかない。値上げなど、あり得ない。
そうかといって赤字が続けば、金融機関に資金を引き揚げられ、倒産してしまう。現実は、「一時の赤字」さえ許してくれない。八方塞がりだ。
Aさんは、せめて数字上で黒字を維持するため、死に物狂いで対策を講じる。省エネ「電気炉」に入れ替え、照明もLEDに代えた。小さな節電を積み重ねつつ、赤字と黒字の境目をさまよっている。
同業者が倒産・廃業したという話も、耳に入り始めた。そのたびに、「次は自分のところか……」と不安に駆られる。
「この数年間、頭の中は『どうすれば倒産しないか』でいっぱいでした。少し判断ミスして借り入れが遅れたりしたら、もう終わりです。しんどかった。こんな状況、あとどれだけ続くんでしょうか」
Aさんはため息をついた。
「これからどうすればいいのか。『もっと、努力しなはれ』ってことなんでしょうけど……」
自分に言い聞かせるAさんだが、やり場のない本音が漏れる。
「それにしても、ちょっといじめすぎですよ」
今後5年間、原発が再稼動しなければ、鋳造業の担い手が消え、産業ピラミッドの底辺が崩れる。これがAさんの直感だ。
サービス業でも……じわじわ近づく減給?
上の数字は「再稼働が進まず、再エネへの補助金に充てるお金も上乗せされたら、最悪の場合、どれだけ電気代が上がるか(震災前比)」を、製造業で働く人の給与、または、雇用数で換算。地球環境産業技術研究機構(RITE)の試算(2015年2月)より。
電気代値上げの影響は、製造業のみならず、サービス業にも及ぶ。
「売り上げに換算すると、数千万円が吹っ飛んだのと同じくらいのインパクトです。消費増税のダメージと引けをとりませんよ」
そう語るのは、長野県の小売チェーンを経営するBさん。
中部電力からの電話で、電気代の8%値上げを告げられた。
「まあ、しょうがないか」と思いながら電気代を計算すると、毎月400万円も増えていた。利益の10%近くに上る額だ。
危機感を募らせたBさんは、日夜、電気代に関する情報を収集。電力事業の関係者との人脈をつくり、電力会社にも何度も電話した。なんとか民間の電力会社から安い電力を買うルートを開拓し、帳尻を合わせた。
経営者にとって、本業以外に、多くの時間を割かざるを得なくなったことは痛い。
「経営で何か失敗したわけでもない。政府の勝手な判断で、こんなにお金を取られるのはひどい話ですよ」
Bさんによると、多くの経営者は売り上げに気をとられ、電気代の打撃に気付いていないという。
社員にとっても他人事ではない。上がるはずの給料が上がらず、将来的には減給が待っているかもしれない。原発停止が経済を潰すリスクは、時間が経つほど大きくなる。
(本記事は2015年12月号の記事を編集したものです)
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