2018年1月号記事

編集長コラム MONTHLY COLUMN

政府の仕事の“発展段階”

―「福祉国家」から「無税国家」へのステップ

2017年秋の衆院選で消費税増税を「信任」された形の安倍晋三首相は、かさにかかって次々と増税案を打ち出している。

教育無償化のために企業が負担する社会保険料を引き上げる。ビジネスや旅行で海外に行く人に「出国税」をかける。控除見直しで所得税を増税する。

安倍政権は、「豊かな人や企業から税金をどんどん取って、"弱者"にバラまく」という福祉国家路線を突き進んでいる。

無税国家(1)

政府の投資会社化

経営学の父ドラッカーは、「管理不能となった医療保険や年金の大幅縮小が不可欠」と早くから指摘。「大きな政府」である福祉国家は解体され、「小さな政府」に向かわざるを得ないとした。その上で、「 成果を上げる政府 」が必要だと強調していた。

その延長上にある一つの理想が、「経営の神様」松下幸之助氏が唱えた、国民に税金を課さない「無税国家」だ。

松下氏は、「税収から1割でも貯めて、1千兆円規模の資金をつくり、その運用によって税金をゼロにする」という構想を1979年に発表した。同時に、利益を国民に還元する「配当国家」を目指すことも提起した。

これは、松下氏が実践した資金や人材などの余裕をつくり出す「ダム経営」や、借金をしないで自己資金だけでやり繰りする「無借金経営」を政府の運営に応用するというものだ。

幸福の科学の大川隆法総裁は10月の法話「国家繁栄の条件」で、「無税国家」を目指すべきだとして、「 無借金経営はそう簡単にできることではないので、まずは、『思いの力』と『構想力』と『現実の努力』の結果として、そうなっていくことが大切だと言えるでしょう 」と強調した。

現実に「無税国家」を一部実現している国もある。シンガポールでは、政府が投資会社を持って資金を運用。その利益で予算の1割をカバーしているという。

日本が「無税国家」を目指すならば、「予算はその年度に使い切らないといけない」とする憲法上の単年度予算制の見直しが必要になる。

「報徳精神」に由来する

松下氏が主張した「無税国家論」の背景には、松下電器(現パナソニック)の経営理念にある「産業報国」「感謝報恩」の精神がある。「個人も企業も与えられたもの以上のお返しをしないといけない」という考え方。それを政府に当てはめると、「無税国家」のアイデアが出てくる。

もともと「無税国家」は、明治時代の教育者・福沢諭吉が「可能だ」と提案した。 二宮尊徳の「報徳精神」に基づくもの だったという。

尊徳には、「 人間はそれぞれ長所(徳)を神仏から与えられており、それを磨くことで、神仏と他の人々に報恩できる 」という信念があった。

無税国家(2)

政府の株式会社化

「無税国家」には、政府そのものを株式会社にするという、過去に例のない方法もある。

これは、天国に還った松下氏が2005年、幸福の科学の大川隆法総裁を通じて降ろしたアイデアで、ポイントは以下の内容だ(本誌06年1月号で詳報)。

「資産を洗い出して売却できるものは売却し、時価総額を出したうえで株式を発行。省庁に民間企業幹部を迎え、仕事のスピード化・黒字化を図る」

1987年の国鉄民営化は、資産を売却して莫大な借金を返済し、JR各社が営利事業を展開し稼げるようにしたので、そのプロセスに近いものがある。

国鉄は当然ながら国営だったので、駅ビルなどを使った「お金儲け」ができず、借金が25兆円にも膨らんでいた。今なら当たり前の「駅ナカ」ビジネスなどができるようになり、鉄道事業の赤字を補えるようになった。

これと同じように、 政府としてビジネスを展開できるようにしようというのが、株式会社化による「無税国家」構想だ。

もちろん、今の大臣や事務次官では、商売がうまくない「武士の商法」で稼げそうにない。商社など実業界から人材を獲得し、権限を与えることが「黒字化」のためには欠かせない。

重要なのは、リニア新幹線など交通インフラや、防衛・航空・宇宙などの分野に投資し、未来産業を創り出すことだ。

成功すれば国民にとって政府は、 「税金をどんどん取っていく政府」から、「もっと投資したくなる政府」になる。

「政府が寄付を集める」

松下氏は生前、「政府の事業を寄付を集めてやる方法があっていい」と提案したこともあった。

確かに歴史上、豪商や大実業家が自らの資産で「公共事業」を行うことは、日常風景だった。

現代にもその名が残る大阪の淀屋橋は、江戸時代に商家の淀屋が造ったもの。今も使われている日比谷公会堂や東大の安田講堂は、明治の財界人・安田善次郎が寄付した社会事業の一つだ。松下氏自身も、大阪・梅田の歩道橋を建設し寄贈するなどした。

「社会の資源や人材を使って大成功したのだから、社会に恩返しをする」ということが当たり前に行われていた。

明治期はほとんどの労働者に所得税がかからず、富裕層でも数%の税率だったため、インフラや教育に寄付する篤志家が全国にくまなく存在した。

戦中・戦後は、所得税率が50~90%以上の重税の時代となり、篤志家が出にくくなっている。ただ、震災時の義捐金やボランティア活動に見られるように、助け合い、社会に恩返しする精神は広く国民に根づいている。

安倍政権は待機児童問題を解消するために産業界に3千億円を出させようとしているが、子育て経験が豊富で保育士に代わる役割を果たせる高齢者で、「子育てのボランティアをやりたい」という人はたくさんいる。

「社会にお返しがしたい」という"善意"を集めることが、「無税国家」をつくり出す。

無税国家(3)

政府の宗教国家化

ほぼ全国民が"善意"を差し出し、空前の大事業をやり遂げた時代もあった。奈良の大仏建立のプロジェクトがそれだ。

聖武天皇が「仏法によって国民を救いたい」と発願。「一本の草、一握りの土であっても功徳を積める」と全国民に資金と労役の布施を呼びかけた。貧民救済などで信望を集める行基を勧進役に起用し、仏への感謝・報恩を募った。

建立にかかった資金は国家予算の2年分とされるので、今なら200兆円を集めたことになる。 国家がどれだけ「尊い仕事」をするかによって、集まる"善意"が桁違いのものになることを示している。

「無税国家」には、政府の「投資会社化」「株式会社化」「宗教国家化」の3段階があるといえる。後者になるほど「社会や神仏に恩返ししたい」という"善意"の循環が大きくなる。

政府の仕事にも"発展段階"があり、究極の理想は政府の事業に布施をしたくなる「宗教国家」にある。

マルクス主義を葬るには

一方、安倍政権の福祉国家路線は最低レベルに位置づけられそうだ。マルクスの共産主義思想を実践していることが大きい。

マルクスは自身の思想を、(1)「神仏もあの世もない」という唯物論、(2)「お金持ちは悪人」という嫉妬心、(3)「強制的に他人の富を取っていい」という"強奪"の正当化―によってつくり上げた。だから自民党政権は、増税ラッシュで富を奪う政策を推し進めている。

この流れを逆転させるには、 マルクス思想をひっくり返せるだけの、スケールの大きな「報徳精神」の復活が必要になる。

それができるのは、(1)神仏への限りない感謝(信仰心)、(2)神仏と世の中への報恩(与える愛)、(3)「努力する者が報われる」という自助努力―を教え実践する宗教であり、政治勢力だ。

この精神の下で国民は長所(徳)を発揮し、繁栄を実現できる。

「無税国家」に一歩ずつ近づいていく努力が、いまだ世界を席巻するマルクス主義を葬り去る。

(綾織次郎)

BOOK

無税国家論がよくわかる

国家繁栄の条件

『国家繁栄の条件』

大川隆法総裁が「無税国家」を目指すべきと提案した法話「国家繁栄の条件」を所収。

大川隆法著
幸福の科学出版