《本記事のポイント》
- 7年前に大川隆法・幸福の科学総裁が『この国を守り抜け』を出版
- 提言――北朝鮮と中国は憲法9条の適用外に
- 提言――「インフレターゲット」と「脱・増税」で景気回復
このたびの衆院選における、自民党のキャッチコピーは「この国を、守り抜く。」だ。主に、北朝鮮ミサイルを意識したものであり、「北に対する国際的な圧力」「日米同盟を強固にすること」「ミサイル対処能力の強化」などの公約につながる。
7年前、このキャッチコピーによく似たタイトルの著書を、大川隆法・幸福の科学総裁が出している。2010年11月に出版された『この国を守り抜け』だ。
タイトルはそっくりだが、内容はまったく違う。大川総裁の著書は、その後7年間の日本の政治経済を見通していたが、自民党は残念ながら見通しを誤ってきた。
北朝鮮と中国は憲法9条の適用外に
例えば、外交・国防について。
大川総裁の著書が発刊された当時は、ちょうど民主党の菅直人政権だった。外交においては、沖縄の普天間基地問題が暗礁に乗り上げ、鳩山由紀夫氏が首相を辞任。その後、尖閣諸島沖漁船衝突事件が起きていた。
そんな中、大川総裁は「 数年のうちに、日本の政治の流れを保守回帰の方向、まっとうなものの考え方をするほうに持っていかないと、危険度は高い 」と主張。2012年の政権交代において、少しばかりの「保守回帰」が見られたが、その流れを促すような提言であった。
また、憲法9条についても、「 "平和主義"も結構だと思いますが、それならば、北朝鮮の金正日氏に、憲法九条を採用するように、ぜひ言ってください。彼を説得できるものなら、どうか、してみてください。あるいは、中国の指導部に、『あなたがたも平和憲法を採用するように』と、どうか言ってみてください 」と、「護憲」によって北朝鮮危機は回避できないことも訴えていた。
また、憲法9条改正には時間がかかる可能性が高い。その間に北朝鮮や中国の脅威が増し、アメリカによる抑止力が当てにならなくなる事態を見越し、こう提言していた。
「 日本国憲法の前文には、『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して』と書いてあります。(中略)ところが、北朝鮮や中国が『平和を愛する諸国民』でなかった場合には、憲法前文の前提条件が崩れます。"平和を愛さない国民"に取り囲まれていて、攻められるおそれがあるなら、そのあとの九条については条文の解釈だけでも変えるべきです。少なくとも、『集団的自衛権を行使できる』というぐらいの解釈には踏み込むべきでしょう 」
安倍政権が、集団的自衛権を使えるように「安全保障法制」を改正したことは評価できる。だが、現在の北朝鮮情勢は、憲法で「戦力を持ちません」「交戦権もありません」と定めていては、対処できない事態になりつつある。この「前文の解釈変更」は政府も一考すべきであろう。
また、現在、自民党は憲法9条改正を事実上放棄しつつある。
大川総裁は上記の「前文の解釈変更」について述べた直後にこう釘を刺している。
「 アメリカも、自分で自分の国を守る気がないような国を、それほど支援してくれるとは思えないので、退くときには、本当に、あっさりと退いていくでしょう。そのときは危険なことになるだろうと思います 」
自民党の安全保障政策は、アメリカが日本の代わりに反撃してくれることを前提にしている。「自分で自分の国を守る」という意味での「この国を、守り抜く。」ではないのだ。
「インフレターゲット」と「脱・増税」で景気回復
同書は、経済政策についてもその後を占う提言をしている。それが、「アベノミクス第一の矢」であった「インフレターゲット」政策だ。大川総裁はこう述べる。
「 日銀にとって、『インフレターゲットの導入』は、天地が引っ繰り返るようなことでしょうが、今は、それをやる必要があります。(中略)経済成長を実現したければ、やはり、緩やかなインフレをつくるべく目標を立てなければいけないし、そのためには、通貨の供給量を増やさなければなりません 」
一方、同書では、デフレ圧力となるものとして、「増税」も同時に挙げられている。
「 誰が財務相になっても、官僚に一時間ほどレクチャーをされると、考え方をコロッと変え、『増税』『国債抑制』の路線になってしまいます 」「 日銀総裁と財務大臣を、それなりの人に替えれば、日本経済は、あっという間に変わります 」として、金融緩和をしつつ、増税を行わない判断をすることが、景気回復・経済成長につながると訴えていた。
実際、2012年に安倍政権が誕生し、日銀総裁を変えて、いわゆる「インフレ目標2%」を掲げた。そのための「異次元緩和」により、日本経済は回復軌道に乗り始めていた。しかし、「消費税8%への引き上げ」という、財政政策における失敗により、アベノミクス景気はすっかり腰折れしてしまった。
この国の「安全」「経済」を"守り抜く"ためには、もう一歩、踏み込んだ議論が必要とされるのではないか――。そう感じさせる一書と言える。
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