モスクワのクレムリンの風景。
核・ミサイルの実験を続ける北朝鮮に対し、国際社会は警戒を強めている。北朝鮮との密接な関係にある中国も、国内にある北朝鮮系企業の閉鎖を命じるなどの制裁を科している。
各国が制裁に足並みをそろえる中で、異なる動きを見せるのがロシアだ。
現役大学生の筆者は8月上旬から約1カ月間、ロシアのモスクワ大学に留学していた。ロシア語を学びながら、その合間に見聞したロシアの文化や国内の状況について綴ってみたい。
あちこちにそびえるロシア正教の教会
モスクワの街並みはとてもきれいで、滞在中に通っていた学校のそばにはロシア正教の教会があり、政治の中心地でプーチン大統領の官邸も置かれているクレムリンの近くを散歩していても、あちこちに大きな教会がそびえていた。他にも、モスクワ市内にはさまざまな博物館や美術館が多数建っており、自国の歴史に誇りを持っていることを感じた。
ガイドブックなどでも馴染みのある「赤の広場」にある、聖ワシリイ大聖堂に代表されるロシア独特の配色や、土産物屋に並ぶ工芸品の重厚な美しさには目を見張るものがあった。
一緒に留学した日本人の友人は、博物館の案内係のロシア人から勉強中だという日本語で話しかけられた。総じて、ロシアの人々は親日的だった。
ロシア人の生活は宗教に根ざしていた
現地に行って最も驚いたことは、ロシア人の生活が宗教に根ざしていることだ。
前述したように、首都モスクワにはロシア正教の教会が多くあり、現地のロシア人の話によると各家庭には聖像である「イコン」が置かれているという。ロシア人の信心深さが伺える。
唯物論・無神論国家として約70年も続いたソ連を前身とする国とは思えず、宗教的にも成熟した歴史を持ち合わせている国と感じた。
北朝鮮に接近するロシア
帰国してから1カ月後の9月29日、「ロシアが北朝鮮に接近か」という報道が流れた。ロシアが独自に北朝鮮外務省の崔善姫米州局長をモスクワに招き、ロシア外務省のブルミストロフ巡回大使と今後の朝鮮半島について会談を開いた。
それと前後して、ロシア外務省高官は、朝鮮半島情勢の正常化に向けた協議をロシアが非公表で独自に進めていると発表。また、10月中旬にサンクトペテルブルグで開かれる国際会議に、ロシア側が北朝鮮と韓国の議員を招待したという。
こうした状況を受け、ロシアが北朝鮮と韓国の3カ国で経済連携を強め、朝鮮半島を足場に極東開発をすすめる狙いがあるのではないかいう見方も出ている。
ロシアを民主主義陣営に引き込むために
国際社会が北朝鮮制裁へと動く中で、ロシアがこのような逆の動きを取るのはなぜか。
ロシアは2014年にクリミアを併合した。ロシア系住民が多く住んでいたことを考えれば、プーチン大統領の判断は「邦人保護」と言えるが、欧米諸国はロシアをG8から外し、経済制裁を科すなどした。
プーチン氏は経済的に苦しい状況を打開するために、中国や北朝鮮などと連携することで、欧米諸国をけん制し、国際社会での発言力・影響力を維持しようとしている。
現在のロシアは、情報の規制などが行われており、完全な民主主義国とは呼べない。しかし、日本が欧米諸国との橋渡し役として、ロシアを民主主義陣営に引き込むことは十分に可能だろう。
そのために日本は、北方領土問題にこだわるのでなく、経済協力や緊迫する朝鮮半島情勢を解決に導く最良のパートナーとしてロシアとの平和条約締結に向けた外交を展開すべきだと思う。
そしてまた、ロシアに息づく宗教的な風土が、今後の日露関係を深める上で大きな鍵となる。モスクワに行って、そう強く感じた。(詩)
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