《本記事のポイント》

  • 経済はコロナで失速し、疫病・大洪水の追い打ち
  • 指導者は北京を脱出し、軍は災害を横目に演習
  • "香港"消滅が先か、政権崩壊が先か!?

2020年がすでに半年経過したが、北京政府は「新型コロナウィルス」を皮切りに次々と厄災に襲われ、中国歴代王朝末期のような様相を呈している。

経済はコロナで異例の失速

まずは経済の失速である。

習近平政権は2012年秋の誕生以来、トウ小平が推し進めてきた「改革・開放」路線を放棄し、社会主義を復活させた。その典型が2015年に導入した「混合所有制」だ。活きがいい民間企業とゾンビ化した一部国有企業を合併した。そのため、ゾンビ企業は生き残り、合併してできた民・国企業は活力を失っている。

中国経済は実際のところ、習主席が登場以降ほぼ毎年右肩下がりだったという見方もある。そこに輪をかけて、新型コロナの影響で、今年1-3月期、中国のGDPはマイナス6.8%だったと公式発表されている。5月下旬に北京で開催された全人代では、2020年の経済成長目標値を打ち出せないという異例の事態に陥った。

疫病の嵐に、大洪水の追い打ち

疫病の嵐も治まらない。

北京市などには「新型コロナ」第2波が襲来。「豚→人」感染する豚インフルエンザも発症している。さらに内モンゴルでは「ペスト」蔓延の危機もある。

そこに追い打ちをかけるように、全国各地で豪雨による洪水が発生している。

6月に入り、長江の水かさが増した。上流の四川省や重慶市では小規模ダムが決壊し、洪水の被害が出ている。2019年夏、Google Earthで三峡ダムが湾曲していると騒がれたが、仮に三峡ダムが決壊したら、武漢市はもとより、南京市、上海市までもが大被害を受けるだろう。

指導者は北京を脱出し、軍は災害を横目に演習

このような国家的危機の中、最高権力者である政治局常務委員の多くが、北京市を脱出したという。しかし習近平主席や李克強首相は、半ロックダウン中の北京市に残って、コロナ収束に尽くすべきではないのか。あるいは、水害に遭った重慶市や武漢市などへ行き、陣頭指揮を執るべきではないのか。ところが、2人とも北京市を離れている。

他方、人民解放軍は、南シナ海の3海域で、米軍の2つの空母打撃群に対抗すべく、軍事訓練を行っている。しかし今、不要不急の軍事訓練などしている場合なのだろうか。被災者の救助活動にあたるべきではないのか。

以上の状況を見ると、習近平政権は事実上、統治能力を失っていると言っても過言ではない。

それでも"香港"弾圧に固執

そんななかにあっても、中国共産党は香港の「民主化」弾圧に固執している。

6月30日、全人代常務委員会で「香港国家安全維持法」(以下、「国安法」)が全会一致で可決され、翌7月1日、施行された。

この「国安法」にはいくつも問題点が散見される。

第1に、「国安法」と「香港基本法」が矛盾する場合、前者を優先させるという。

第2に、「テロ罪」については犯罪行為が具体的に列挙されているが、「国家分裂罪」・「国家権力転覆罪」に関しては具体性に欠ける。「罪刑法定主義」からすると、好ましくない。当局が恣意的に条文を解釈し、気に入らない人物を逮捕・起訴できるようになるだろう。

第3に、裁判は普通、公開が原則だが、「国安法」では秘密裁判も認められている。

第4に、我々外国人が注目すべきは、第38条である。刑法の「(国家)保護主義」の立場から、「国家分裂罪」・「国家権力転覆罪」・「テロ罪」については、香港永住権を持つ人以外の外国人にも適用されるという。

刑法では、原則「属地主義」を取り、犯罪が起こった場所(管轄権)を重視する(ただ、「属人主義」に従って、海外で罪を犯した人間を国内や海外で裁くこともあり得る)。

けれども、場合によっては、「国安法」に抵触した人が、香港入境しなくても(「旗国主義」により)香港籍の船舶や飛行機の中で、香港警察に逮捕される可能性がある。

同法の、かなり横暴な運用が予想される。

"香港"消滅が先か、政権崩壊が先か!?

ネットでは、香港に関して習近平主席を揶揄する、次の"計算式"が話題になっている。

「1997年+50年=2020年」

1997年7月、香港は英国から中国へ返還された。「中英共同声明」・「香港基本法」では50年間「1国2制度」による香港の"高度な自治"が認められていた。ところが、まだ23年しか経っていない2020年7月の時点で、香港は「国安法」施行に伴い、「1国1制度」へと変貌した感がある。

しかし前述の通り、習近平政権は末期的症状を見せている。米国の「香港自治法」等の法律および"国際的中国包囲網"の形成が北京への圧力となるかもしれない。今までの"香港"(自由・民主を謳歌)が完全に消滅するのが早いのか、中国共産党政権が崩壊するのが早いのか──。予断を許さない状況が続くだろう。

アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

【関連書籍】

『ザ・リバティ』2020年8月号

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