《本記事のポイント》

  • レイFBI長官はアメリカの全国民に対中脅威認識を持つよう促す
  • 約1000億円の知的財産を盗む中国人科学者もいる
  • ナバロ氏の肝いりの産業政策が成果を上げたトランプ政権第一期

クリストファー・レイ米連邦捜査局(FBI)長官は7日(現地時間)、米シンクタンク・ハドソン研究所で、中国問題に関する演説を行った。

この演説は、オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が6月24日に行った対中政策演説につづく第二弾。今後数週間で、ウィリアム・バー司法長官とマイク・ポンペオ国務長官も、中国問題に関する演説を行う予定である。

第一弾のオブライエン氏の演説は、習近平国家主席を独裁者スターリンと同一視する強硬なものであったが、レイ氏の演説もそれに劣らないほど辛辣な中国批判で、国民に広く対中脅威認識を持つよう促した。

まずレイ氏は、この問題を政府や諜報機関、大企業の問題だと考えてはならないと主張。

すべてのアメリカ人は個人情報を盗まれた可能性があるとして、アメリカ大手信用情報会社の1つのエクイファックスに、中国人民解放軍のハッカーがデータベースに侵入したケースを挙げた。これは2017年に1億5000万人もの個人情報が盗まれた大規模な事件。こまめにパスワードを変えるなどの対策を取るようにといった、きめ細やかな助言もした。

10年間で経済スパイは1300%増

またレイ氏は、中国の経済スパイによって、アメリカから中国に人類史上最大とも言えるほど莫大な富が移転されたと訴えた。

具体例として、中国の海外ハイレベル人材招致の「千人計画」に応募した中国国籍のホンジン・タン氏を挙げ、同氏が米独立系製油会社フィリップス66から盗もうとしたバッテリー技術に関する企業秘密に10億ドル(約1060億円)以上の価値があると述べた。

他にも、中国人の教授であるハオ・ツァング氏が米企業から盗もうとしたワイヤレス技術は、その開発に企業が20年の歳月をかけたものだとして、知的財産のスパイ問題の深刻さを強調した。

FBIは、企業だけでなく学問の世界でも、千人計画に関与する中国人研究者を摘発しているが、大学には税金から補助金が出ているため、結果的に、アメリカ国民の税金が中国の技術開発に使われていると述べた。

現在、各国が開発を急ぐ新型コロナウィルスのワクチンについても、臨床試験の成功を発表した直後に、中国からサイバー攻撃を受けた製薬会社も多いと指摘。航空宇宙産業、ヘルスケア、ロボティックス、農業など幅広い分野の産業がターゲットになっており、それは企業の大小を問わないと実態を説明した。

米国内のスパイ事案の約5000件のうち、半分が中国関連であり、この10年で中国の経済スパイは1300%増加したという。約10時間ごとにスパイ事案が発生しているといい、その頻度の高さを示した。

中国は米外交政策を挫く方法を確立している

さらにレイ氏は、中国がアメリカの政策決定にも影響を与えているとして、こう述べた。

「アメリカの高官が台湾に近く訪問するという情報を、中国が得たとします。中国にとってアメリカの政府高官や議員の訪問は、台湾の『独立国家である』との主張に正統性を与えるため、都合が悪い。もし訪台する政治家の選挙区の会社が中国に進出しているとしたら、その会社の中国での生産許可を取り消すと脅す。そうすると台湾の訪問はキャンセルに追い込まれるのです」

その政治家が信頼している人物に、台湾訪問を止めた方がいいとささやかせて、計画を変えさせることもある。しかも、その人物は中国に使われているという自覚さえない場合があるという。

「キツネ狩り」で反体制派に自殺を求める

2014年から習近平国家主席が陣頭指揮を執ってきた「キツネ狩り作戦」にも言及した。この作戦は「腐敗撲滅」の名目で行われてきたが、実態は、政敵、反体制派、批評家をターゲットにしている。

中国のスパイをアメリカに送り込み、ターゲットに即刻中国に戻ってくるよう要請し、それを断れば自殺するよう求めるという。

レイ氏は、中国の「キツネ狩り作戦」のターゲットになっていると身の危険を感じたら、近くのFBIに連絡を取ってほしいと呼び掛けた。

ピーター・ナバロ氏の産業政策が実現

ピーター・ナバロ米大統領補佐官が中心となって、中国の「経済侵略」を批判する報告書(How China's Economic Aggression Threatens the Technologies and Intellectual Property of the United States and the World)を発表したのが、2018年6月。

同報告書は、中国がアメリカの技術・知的財産を盗む手法を体系的に示した。合弁・提携、企業買収、留学生、サイバー攻撃などの様々な手法で盗んできたが、その技術の総額は600億ドル(約64兆円)に上るという。

ナバロ氏がこの報告書を発表後、アメリカは着々とスパイを摘発してきた。トランプ政権の第一期は、ナバロ氏の助言を正しく受け止め、大きな成果を上げつつあるのだ。

レイ氏が述べるように、何十年もかけて企業や大学が資本投下して開発した技術を、中国は戦略的に盗んでいる。

日本でも官公庁や企業がサイバー攻撃を受けたニュースがしばしば報じられる。だが同報告書の日本版は存在せず、具体的にどのような手口で、盗みが行われてきたについては分からない。経済スパイの逮捕が日常的に報じられるようになったアメリカとの彼我の差は歴然としている。

また、民主活動家などがターゲットになる「キツネ狩り作戦」も日本で行われていると推測するが、彼らの身柄の安全は確保されているのか、心配だ。

最近、日本では、自民党が習近平氏の国賓来日中止を求める非難決議をまとめた。だが、親中派のドンである同党の二階俊博幹事長や二階派の議員の反発により、原案の「中止を要請する」から「中止を要請せざるを得ない」と表現が弱まった。二階氏は「日中関係のために、先人たちが紡いできた努力をなんだと思っているのだ」と、不快感を示したという。

こうした自民党の対中認識は、5月に発表された「中国に対するアメリカの戦略的アプローチ」で示されたアメリカの対中認識と著しく異なる。アメリカから、日本はどちらの同盟国なのか、と疑いをかけられてもおかしくないレベルだ。

政府は外為法の改正などで対応を急いできたが、経済スパイの摘発は心もとない。特に大学の共同研究の場合は、納税者のお金が中国の技術開発に使われてしまう。納税者である日本国民は、FBIと同等の捜査を求めるとともに、中国人留学生のビザの発給の厳格化などを政府に求める権利がある。

アメリカから技術を盗めなくなれば、次にターゲットとなるのは日本やドイツとなる。日本は対中政策で、アメリカと共同歩調を取り、中国に製造大国としての地位を築かせてはならない。

(長華子)

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