《本記事のポイント》

  • トルコの統一地方選挙で3大都市の与党候補が落選。与党は不正投票があったと申し立て
  • 選挙戦の鍵を握っていたのはクルド人票という説も
  • 対米関係もF35納入凍結などで悪化し、政権運営の建て直しは必至

トルコで統一地方選挙が3月31日に実施された。これは全国の市長を選出するもので、投票率は84.67%。この選挙結果に、トルコ全土が揺れている。

エルドアン大統領率いる与党連合の公正発展党(AKP)が擁した候補は、首都アンカラや大都市イスタンブール、イズミルの3大都市で落選。野党連合の共和人民党(CHP)と改善党(IYI)が当選するという大番狂わせが起きた。

エルドアン氏とAKPは、2002年に政権与党になって以来、ほぼ全ての選挙で勝利してきた。今回の結果は、長引く経済停滞や強権政治、アメリカとの対立などにより、エルドアン氏が求心力を失ったためと分析されている。

クルド人勢力が大都市で野党を応援

野党勝利の大きな理由は、もう一つある。

地元新聞は、トルコに住むクルド人の多くに支持されている国民民主主義党(HDP)が、イスタンブールやアンカラなどで独自候補を立てず、野党候補を応援したと報じている。

クルド人は、トルコ人口の15~20パーセントを占める。長年、エルドアン政権による民族弾圧に苦しむクルド人有権者の票が、今回の選挙に大きな影響を与えたことは明らかだ。

HDPは、クルド系民族がかつて統治していた南東部と東部地域の支持基盤では独自候補を擁立。3つの大都市広域市、5つの都市で勝利している。

この結果に対し、AKPは不正投票があったとして、即刻異議の申し立てを行った。イスタンブールとアンカラでは、現在、無効票の数え直しが行われている。

アメリカもトルコへの「F35」納入凍結を発表

エルドアン氏への事実上の信任投票と位置づけられていた今回の選挙。3大都市での敗北が確定すれば、今までのような"強権"をふるい続けるわけにはいかないだろう。

エルドアン氏に対する"逆風"は、アメリカとの関係悪化から強まっている。昨夏には、トルコが拘束するアメリカ人牧師の身柄をめぐり、対米関係は悪化。トランプ米政権はトルコに経済制裁を科し、トルコの景気は大幅に悪化した。

さらに今月1日、米国防総省はトルコへの最新鋭ステルス戦闘機「F35」の納入凍結を発表。アメリカ政府はかねてより、シリア内戦の和平協議などで協力し合うトルコとロシアの関係を注視していた。F35のデータが、トルコが配備するロシア製地対空ミサイルシステム「S400」を通じてロシア側に抜けることを懸念し、トルコへの売却を止めた。

強権政治や民族・言論弾圧などで、国内外で非難されているエルドアン政権。今回の選挙結果やアメリカとの関係などから、政権運営の大幅な建て直しを迫られることになるだろう。

(駒井春香)

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