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《本記事のポイント》

  • ボーイング機が相次いで事故を起こし、各国は運行停止を命令
  • 中国は貿易交渉で、この事件を大いに利用するだろう
  • 航空機業界をめぐる覇権争いが起きている

エチオピア航空の米航空機大手ボーイングの旅客機「737MAX」が、10日午前に墜落事故を起こし、乗客・乗員157人が亡くなったことは、さまざまに報じられている。インドネシアのLCCライオンエアの同型機も、昨年10月に墜落事故を起こし、189人の死者を出したばかり。相次ぐ事故により、同航空機は運行停止に追い込まれている。犠牲者の冥福を心より祈りたい。

事故原因は、機体の欠陥にあるのか、操縦士の運転ミスなのか、さまざまな憶測を呼んでいる。この事件で最も早く動いたのは、中国だった。中国は事故が起きた翌日、事故を起こした同型機の運航停止を航空各社に命じた。その直後、世界は中国に続くかのように同様の判断を行い、アメリカはそれを追認する形となった。

これまでの国際慣例では、運航停止について、機体の設計認証を与えたアメリカ当局が判断し、その後に世界が動くことになっていた。しかし今回は、中国が判断を下し、世界が追随したという意味で、中国の影響力の大きさが世界に示されることになった。

日本の国土交通省は、アメリカが運航停止を判断した13日にようやく腰を上げ、同様の措置をとった。「判断が遅い日本のお役所体質」や「アメリカ追随」などの批判が起きている。

事件は米中貿易戦争の最中で起きた

中国が運航停止を命じた理由には、機体の安全性だけでなく、「政治的な側面」が透けて見える。中国は、トランプ米政権から対米貿易赤字の削減を要求され、アメリカの航空機を大量に購入する契約も、交渉の俎上にあがっている。

中国の航空会社は、737MAXを大量に保有しているが、トランプ大統領が2017年11月に訪中し、習近平国家主席が購入を約束したためだ。

中国は、現在進めている貿易交渉を有利にするために、安全性というもっともらしい理由を挙げて条件をつけ、その後、あえてボーイング機を買ってあげる、という貸しをつくることができる。貿易交渉のカードとして、ボーイングの事件を大いに利用するだろう。

中国は格安航空機をつくり、航空業界の覇権をとる狙い

中国は、2024年までにアメリカを抜いて、世界最大の航空市場になるという見通しがある。ボーイングのみならず、ヨーロッパのエアバスにとっても、重要な顧客だ。

そんな中国は、米欧の技術や部品を使って、格安な航空機を製造し、新興国に輸出攻勢をかけるという見方がある。アフリカなどでは、航空機は高価であるため、中古の航空機が現役で活躍しているためだ。

中国は、経済圏構想「一帯一路」に参加する国々に輸出をかけ、長らく航空業界をけん引してきた米欧を駆逐するだろう。アメリカはそれを警戒し、トランプ氏は「アメリカ・ファースト」を掲げ、製造業を守ろうとしているのだ。

事故を起こしたボーイング機に問題はなかったか、原因の究明を進める必要がある。しかし、事件を最大限に利用しようとする勢力がいることも、また頭に入れておく必要があるだろう。米中貿易戦争の最中に、航空機業界をめぐる覇権争いが起きている。

(山本慧)

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