南シナ海から始まる米中覇権争いの行方とは 【HSU河田成治氏インタビュー】(前半)

南シナ海から始まる米中覇権争いの行方とは 【HSU河田成治氏インタビュー】(前半)

vanchai tan / Shutterstock.com

 

《本記事のポイント》

  • 覇権国と、それに挑戦する新興国との間に戦争は起きるのか
  • 中国は南シナ海を支配するために武力行使を躊躇しない
  • 中国は核戦略と通常戦力で米軍を退ける戦略を持っている

 

「米中新冷戦」が始まっている。トランプ米政権は、さまざまな局面で中国を追いつめようとしている。

 

昨今、話題になっているのが次世代通信「5G」などの先端技術から、中国通信メーカーのファーウェイなどを排除する動きだ。その一方で、南シナ海で見られるような中国の海洋進出の動きに対しても圧力を高めていることを見逃してはならない。

 

9月末、中国艦艇が南シナ海のスプラトリー諸島近くを航行中の米駆逐艦に、41メートルの距離まで異常接近した。軍事的にアメリカに対抗する姿勢を見せたのだ。その後、トランプ大統領は中国に対して「軍事基地化するな」と大統領として初めて発言した。

 

ペンス副大統領も、11月の東アジア首脳会議(EAS)で、「中国による南シナ海の軍事化と領土拡張は違法で危険だ」「多くの国の主権を脅かし、世界の繁栄を危険にさらしている」と、中国を名指しで批判した。

 

著書『米中大戦前夜』において、米中衝突について警鐘を鳴らすハーバード・ケネディ・スクールのグレアム・アリソン教授は、米紙ニューヨーク・タイムズの中で「中国の海洋進出はかなり進んでいる。南シナ海周辺国はゲーム・オーバーだと考えていたが、トランプ氏は精力的に反撃に転じている」と述べている。

 

一触即発に見える南シナ海問題について、幸福の科学・大川隆法総裁は、10月にドイツで行われた法話「Love for the Future」において「第三次世界大戦が南シナ海周辺で、2025年から2050年の間に起きるでしょう」と予言している。

 

古代ギリシアでは、覇権国家スパルタが新興国アテネの挑戦を「脅威」に感じ、ペロポネソス戦争に踏み切った。当時と同じく、現在の覇権国家であるアメリカと次なる覇権国家を目指す中国との間で、新たな戦争が起きる可能性があるのだろうか。その場合、南シナ海は、第一次大戦の戦争発火点となったセルビアのごとく、次の大戦の火種になり得るのか。

 

この問題について、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)未来創造学部で安全保障や国際政治を教える河田成治アソシエイト・プロフェッサーに話を聞いた。(聞き手 長華子)

 

中国は南シナ海を支配するために武力行使を躊躇しない

元航空自衛官

河田 成治

プロフィール

(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

──中国の南シナ海に対する立場について教えてください。

河田: 中国は、2000年代から南シナ海を「核心的利益」と位置づけています。中国は「核心的利益」を守るためには、武力行使も躊躇しない方針をとっています。

 

例えば、2005年に台湾を「核心的利益」と呼び、中台統一に対する外国の干渉や台湾独立運動に反対する立場から「反国家分裂法」を定め、台湾が独立するなら武力行使も辞さないとしました。それは南シナ海においても当てはまります。

 

このため、11月9日に中国の楊潔チ中央外事工作委員会弁公室主任と、アメリカのポンペオ国務長官、マティス国防長官との間で実務者協議が行われましたが、物別れで終わっています。

 

中国側は、「南シナ海の岩礁に建設した施設は、ほとんどが文民施設」であり、「外部からの脅威の可能性に対応するために、特定の治安施設を建設する必要がある」「軍事化とは関係ないものである」などと主張。「アメリカが軍事的行動を追求するための言い訳として、航行・上空飛行の自由を利用することは不当である」と譲歩しませんでした。

 

また中国は、東南アジア諸国連合(ASEAN)と共に、南シナ海紛争回避に向けた「行動規範」をつくろうとしています。しかしこれは中国が軍事拠点化を進める上で、周辺諸国をなだめるための「時間稼ぎ」にすぎないと考えられます。

 

なぜなら、交渉を進める中国外交部は、中国軍を統制する力を持っているわけではなく、外交部の決めたとおりに軍が行動するとは考えにくいからです。あるいは南沙諸島などの状況を法的に既成事実化し、米軍を追い出すための規範づくりだとも言えるでしょう。

 

 

核戦略と通常戦力で米軍を退ける戦略を立てている中国

──現在、南シナ海で米中が衝突する危険性はどれぐらいあるのでしょうか。

河田: 現段階では、中国はアメリカと事を構えるのを控えています。中国がアメリカに対決姿勢を強めるのは、米軍がアジア太平洋に戦力を集中することを困難にさせる環境をつくってからになるでしょう。

 

では、どうしたらそういう状況ができてしまうのか。中国は、「核兵器による安定」とA2AD(接近阻止・領域拒否)の完成の2つを目指しています。

 

「核兵器による安定」とは、「恐怖による安定」のことです。つまり米中両国が「核戦争による壊滅への恐怖を感じるような状態」のことです。この状態では、両国は小競り合いが生じても、核の危険性がある全面戦争へのエスカレーションを避けようとするため、「大戦争になりにくい」という安定がもたらされることになります。

 

中国がこの状況を築くには、アメリカからの先制核攻撃によって破壊されない核兵器を持つことが必要です。そのために、河北省の山岳地帯の地下に「地下の万里の長城」とも呼ばれるトンネルを築いて、攻撃に耐えられるようにしています。中国の新型ICBMであるDF-41(射程距離約12000km)は、この地下の長城から撃つことができるものです。

 

この弾道弾はマーブ(MIRV)と呼ばれ、複数の核弾頭を装備し、それぞれが違う目標に攻撃できる弾道ミサイルです。DF-41には、最大弾頭が10個入っています。10個の弾頭は別々の方角に飛んで行けるので、アメリカのミサイル防衛システムで撃ち落とすのは極めて難しいものです。

 

イギリスの研究機関によると、DF-41を32基配備できたら、アメリカの人口5万以上の都市すべてを破壊することが可能になるそうです。アメリカはDF-41にたいへんな脅威を感じています。アメリカ全土が破壊される可能性が出てくると、核による脅しができず、おいそれと戦争ができなくなるからです。

 

大国間で「核による安定」が成立してしまうと、かえって地域的な紛争が増えるという「安定―不安定のパラドックス」が起きると指摘されています。アメリカによる核の脅しが効かなくなると、逆に中国は南シナ海を取りやすくなってしまうのです。

 

 

中国のA2AD(接近阻止・領域拒否)戦略とは

河田: この核による安定の次の段階として、中国は通常戦力においても勝利する戦略を立てています。西側がA2AD(接近阻止・領域拒否)と呼んでいる戦略です。

 

まず日本列島から台湾、フィリピン、南シナ海に至る第一列島線を絶対防衛ラインとし、東シナ海、南シナ海を聖域化します。いずれは伊豆・小笠原諸島からグアム・サイパンなどを結ぶ第二列島線にまで進出し、第二列島線の外にアメリカを追いやることを目標としています。

 

この目標達成のために、中国は軍事力の強化を図っています。その一つが、空母キラーとされる弾道ミサイルの開発です。中距離弾道ミサイルDF-21よりも射程距離の長いDF-26の開発に成功し、第二列島線に位置するグアムまで狙えるようになりました。

 

米国防総省のレポート「中国の軍事力2018」では、「2019年ごろに就役が予想される中国軍艦(055型)は、空母よりも小さいイージス艦も狙える弾道ミサイルを発射できるようになるであろう」と報告しています。これは日本の護衛艦も狙えると推定されます。

 

これによって、アメリカに対して「もし来るなら来てごらんなさい。虎の子の空母を沈めますよ」とけん制できるようになるわけです。「そこまでしてアジアに行くのか」とアメリカは二の足を踏むかもしれません。

 

空母キラーに加え、「超音速の巡航ミサイル」も開発しています。地上発射型もあれば、飛行機から発射されるものもあります。あるいは船から発射されるものもあります。

 

さらに電磁パルス攻撃やサイバー、電磁波攻撃で、衛星を無力化する戦略もあります。これらの武器をすべて投じたときに、米軍を南シナ海に近づけさせないという接近阻止が完成してしまいます。つまり、アメリカの意図を弱体化させることができるわけです。

 

まず核で対等となり、地域における戦争で、アメリカが勝利できない戦いに持っていくということです。これが中国の考えている大戦略です。

 

したがって中国は、核による安定と、A2AD(接近阻止・領域拒否)の戦略が完成するまで、アメリカとの直接対決を避けるでしょう。いま中国は挑発をしているように見えますが、本気で戦う気はありません。ただ、日米はその備えをしなければなりません。

(後半に続く)

 

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タグ: 南シナ海  米中覇権争  第三次世界大戦  河田成治  HSU    電磁パルス攻撃  

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