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《本記事のポイント》

  • ヨハネ・パウロ2世は「思想でソ連を倒せる」と信じていた
  • 信仰が共産主義を倒す武器になる
  • 「思想の力」はスターリンの理解を超えていた

思想の力は、時に、軍事力や政治力を凌ぐ──。

その代表的な例として、7月18日付本欄「劉暁波とポーランド革命をつなぐもの」では、ローマ教皇であったヨハネ・パウロ2世の巡錫が東欧革命、ひいてはソ連の崩壊につながったという歴史を紹介しました( https://the-liberty.com/article/14666/ )。

本欄では、なぜ教皇は「思想」で歴史を変えることができたのか、その理由を探っていきます。

ソ連の計画を変更させたヨハネ・パウロ2世

最も大きなことは何よりも、教皇自身が「思想によって現実を変えられる」と信じていたことがあるでしょう。

ヨハネ・パウロ2世は、どの教皇とも違っているところがありました。バチカンの外交は国務長官まかせにするのが通例ですが、ヨハネ・パウロ2世は外交に直接コミットしました。「空飛ぶ聖座」と言われるほどで、訪問した国は100カ国を超えています。

さらにヨハネ・パウロ2世は、共産主義へのスタンスにおいても従来の教皇と大きく異なっています。

それまでバチカンは、「共産主義と民主主義との分裂は今後も永続する」という諦めの前提の下で、その中で宣教活動を維持するには、共産主義国家・ソ連と協調路線を取るしかないと考えていました。

確かに、当時、第2次世界大戦後の世界秩序であるヤルタ体制が崩壊すると考えていた人は、世界でもほとんどいませんでした。それは今、北朝鮮や中国が民主化すると信じている人がほとんどいないのと同様。ソ連と共存するには、妥協するしかないという考えが大勢を占めていたのです。

しかし教皇はその立場に就く以前から、「共産主義政府は約束を守ると考えるのはナイーブな発想で、敵の監獄に入るだけだ」と考えていました。譲歩をするのではなく、敵の計画を変更させる側に立ったのです。

その行為は、「英米とドイツとで世界を二分しよう」というヒトラーの提案に対して、「ノー」を突き付けた政治家・チャーチル英首相の行為に匹敵すると言えるでしょう。ヨハネ・パウロ2世の「アイデアリズム(理想主義)」が民主化に向かって歴史を加速させました。

西洋文明を護る気概

一個師団も持たない教皇が歴史を変えた2番目の理由は、敵を攻撃するという作戦よりも、「カトリックの価値を護る」ことが、抵抗の武器になると知っていたことです。

政治評論家のジョージ・ウァイジェル氏は、こう述べています。

「1979年6月の訪問の9日間に、教皇は『あなたがたの文化の中心にあるものは、カトリックです。もしあなたがたが、そのアイデンティティを取り戻したら、あなたがたは抵抗のための道具を見つけるでしょう。全体主義は、あなたがたの信仰に抗うことはできません』。そういうメッセージを送ったのです。それこそが現実に起きたことです」

キリスト教的なアイデンティティとは何でしょうか。それは「人間は神の子」であり、「人間は、自由のために創られた」という人間観です。

なぜ、キリスト教において自由が重視されたのでしょうか。

かつて、自由と愛との関係について、教皇はこう説いたことがあります。

「最も偉大な戒律は、愛であり、愛とは自由が最大限行使されるときに現れるものです」「自由とは、人々を愛するために、そして真に善いことを愛するために、人に与えられたものなのです」

自由が政府ではなく神から与えられたものならば、その自由を人々から奪う共産主義体制は、許されるものではありません。こうした考えを人々が再確認することで、革命が起きたのです。

実は、ヨハネ・パウロ2世の意図をもっともよく理解しているのは、トランプ米大統領です。昨年7月にポーランドのワルシャワを訪問した際のスピーチで、トランプ氏はこう述べています。

「私たちの時代における根本的な問いは、西洋が生き延びる意志を持っているか、いかなる犠牲を払っても、我々の価値を守るという自信があるのか、敵が私たちの文明を転覆し、破壊しようとするときに、私たちは、自分たちの文明を守るという強い意志と勇気を持っているかということです」

「決定的に重要なこうした価値について、もし忘れてしまうような人がいたとしたら、彼らはポーランドを訪問すべきです」

習近平やスターリンの理解を超えた「思想による革命」

「バチカンだって? 教皇が何個師団持っているっていうんだい?」

これは、1945年2月のヤルタ会談で、チャーチル首相がポーランドの共産化に関連してカトリック教会の影響力について触れた後の、スターリンの言葉です。

現時点からこの言葉を振り返ると、スターリンは、思想の持つ力を正しく見積もることができなかったと言えるでしょう。ヨハネ・パウロ2世の巡錫から10年後の1989年に、誰も予測しなかった「東欧の無血革命」が起きたのですから。

現在中国では、共産党員を超える1億以上のキリスト教徒が存在し、共産党員の85%が信仰心を持っているという調査結果もあります(パデュー大学の楊鳳崗教授による)。あのゴルバチョフ大統領も、スターリン像の壁画の後ろに聖母マリアの肖像画を隠していたのですから、隠れキリシタンの共産党員も多く存在することでしょう。

冷戦当時、アメリカとの軍拡競争で、ソ連経済が弱体化するのをきっかけに、ローマ教皇とカトリックを母体とする「連帯」が勢力を拡大しました。

現在もアメリカは、昨年末の国家安全保障戦略において、中国を明確に戦略的な競争相手と位置づけ、中国の経済的覇権を止める方向で動いています。中国経済が減速すれば、ポーランドで活動家が台頭した時と同様の動きも国内で出てくる可能性があります。

国防強化や経済成長を目指すかどうかの議論も、根っこにあるものは、自由・民主・信仰といった西洋文明の価値観を守り通す気概があるかという問題です。また同時に、現代の鉄のカーテンの向こう側で囚われている人たちへの慈悲心や、神に対する責任といった感覚を持つかどうかの問題でもあります。

愛とは自由が最大限行使されるときに現れるもの──。自由文明を享受する私たちは、まず、その自由を最大限行使したときに現れる愛の実践をすべきではないでしょうか。その流れの中では、故・劉暁波氏の妻、劉霞氏などの民主活動家を支援し、「劉暁波の死を無駄にしてはならない」という国際世論を盛り上げる活動は重要になってくるでしょう。

人々の心の中に教会を建て、神への愛と自由の尊さを訴え続けたヨハネ・パウロ2世の遺産から現代の私たちが学ぶべき教訓は数多くあります。

(長華子)

【関連書籍】

幸福の科学出版 『米朝会談後に世界はどう動くか キッシンジャー博士 守護霊インタビュー』 大川隆法著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=2053

幸福の科学出版 『守護霊インタビュー 習近平 世界支配へのシナリオ』 大川隆法著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=2054

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