《本記事のポイント》

  • 自民党が衆院選で掲げた「すべての子どもたちの保育費全面無償化」はウソだった
  • 認可外保育施設を無償化から除外すれば、保育格差は拡大することが必至
  • 政府がすべきは、保育の「全面無償化」ではなく、「規制緩和と多様化」

先月の衆院選で圧勝した自民党が、早速、選挙時の公約をくつがえし始めている。

政府はこのほど、2019年度から段階的に実施する予定の幼児教育・保育無償化について、「認可外保育所の一部は対象にしない」方向で検討を始めた。一律の無償化では行政が認可外を推奨していると受け取られかねないことや、財源確保が難しいことが理由だという。

しかし、安倍首相は衆議院解散当日、次のように語っていた。

「2020年度までに3歳から5歳までのすべての子どもたちの幼稚園や保育園の費用を無償化します。0歳から2歳児も所得の低い世帯には全面的に無償化します。待機児童解消を目指す安倍内閣の決意はゆらぎません」

また、自民党の公約にも「3歳から5歳までのすべての子供たちの幼稚園・保育園の費用を無償化」としっかりと書いてある。

認可枠をめぐる激戦はますます激化する

東京都では、認証保育所などの認可外保育施設に通う子供は17万人いる。

認可外利用の約4割は、できれば認可に入りたかったけれど、空きがなくて入れなかったという家庭だ。利用料がより高額な認可外に通うことを余儀なくされている保護者から「不平等」との声が上がるのは必至といわれている。

この政府の方針を見た保護者たちからは、怒りと落胆の声が上がっている。7日付毎日新聞には、次のような”悲鳴”が紹介されている。

「認可(保育所)に入れる人と入れない人の格差が広がり、認可への申し込み殺到が予想されます」「ただでさえ認可の枠をめぐって激戦なのに、無認可を無償化から除外すれば血で血を洗う状況になる」

また、自民党のこうした「手のひら返し」について、こんなツイートをしている有権者もいる。

「酷いが、正直、選挙中から絶対嘘だと思っていた。今までの政権の態度を見ていれば分かること」

「騙されたとか言っている人たちは、あと何回騙されれば理解できるんだろうね?

そろそろ気づけば?」

選挙があるたびに、票を確保するために耳ざわりの良い公約を並べ、当選後にそれをくつがえす自民党の“戦い方”に、有権者は気づき始めている。

そもそも無理だった「全面無償化」

大阪府守口市では今年4月、住民の子育て支援策として全国の市で初めて0~5歳児の幼児教育と保育を全面的に無償化した。その結果、保育所の利用申し込みが前年よりも4割増え、前年の3倍の待機児童が発生した。

この実例を見ても、待機児童問題を解消するために自民党が掲げた「すべての子どもたちの幼稚園や保育園の費用の無償化」という政策が的外れであることが分かる。

そもそも全面無償化は財源に無理があり、現実的な政策ではなかった。高所得者層の保育料を無償化する必要はないにもかかわらず、もし全面無償化をすれば、財源が足りなくなるのは当然だ。

認可保育所には多額の税金が投入されているにもかかわらず、認可外にはほとんど投入されていない。保育料の安い認可には、ただでさえ預けたい人が殺到している。空きがなく認可外保育所を利用せざるをえない家庭は、認可にも入れなかった上に、無償化の対象にもならない。自民党の政策で生まれるのは、より多くの数の待機児童と、より大きな保育格差だ。

政府がすべきなのは無償化ではなく「多様化」

待機児童を減らすために政府がすべきなのは、「すべての子どもたちの幼稚園や保育園の費用の無償化」ではなく、そもそも政府が認可を与える仕組みをやめ、企業や団体が届けを出せば、自由に保育所をつくれるように規制緩和することだ。

もちろん、保育をする人や施設、安全面などの情報開示を義務化するなどの対策は必要になる。それをクリアしたうえで、企業の保育所やベビーシッター、地域コミュニティのサポート、NPO法人など、さまざまな預け場所の選択肢が広がれば、待機児童問題の解決にもつながるだろう。

(小林真由美)

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