《本記事のポイント》

  • クラウゼヴィッツや孫子の言葉から対北朝鮮戦略を考える
  • 北にとって核はロード・オブ・ザ・リングの「指輪」
  • 金正恩を核で追いつめ、"英雄"として逃がす

アメリカは「外交カード」を切り尽くした感がある。

国連の安全保障理事会は8月上旬、核・ミサイル開発を進める北朝鮮(以下、北)に「石炭の輸出禁止」などの経済制裁を決め、同国の輸出の3分の1を止めた。

これをあざ笑うかのように、北は8月29日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を北海道上空に発射。9月3日には水爆実験を行った。

それを受けて安保理は同11日、さらなる制裁を決める。北の主な収入源であるTシャツなどの繊維製品をはじめとして、輸出の9割強を止めた。

それでも北は同15日、再び弾道ミサイルを発射。北海道上空を通過させ、飛行距離は過去最長の約3700キロ。米領グアムを射程に収める能力を誇示した。

今後トランプ米政権は、どう動くか注目さる。

実は、歴史に残る兵法書をひもとくと、「トランプ政権が"大暴発"する」ことが、世界にとって安全で合理的だ、という見方ができる。

「対話」の恐ろしさ

テレビや新聞などでは「軍事行動は現実的ではない」「対話の道を探るべき」という議論が多くなされている。

しかし「対話ありき」で話を進める前に注目したいのが、プロイセンの将軍クラウゼヴィッツ(1780~1831年)が『戦争論』に記した次の言葉だ。

「戦争は、他の手段による政治的交渉の継続にほかならない」

つまり、「戦争も外交も、国にとって大事な目的を果たす手段である。その目的を忘れ、単に『戦いに勝ちたい』とか、『戦いたくない』といったレベルの議論をしていると国を滅ぼすかもしれない」ということだ。

日本のマスコミ報道では、「そもそも、なぜ北に核を放棄させなければいけないのか」という点がぼやけている。改めて、その主な理由を確認したい。

(1)日本はアメリカに守られなくなる

もし北が米本土に届く核ミサイルを実戦配備すれば、アメリカは北に手出しできなくなる。米国民が「私たちが核攻撃されてまで、なぜ日本を助けないといけないのか」と考えるようになるからだ。

(2)韓国もアメリカに守られなくなる

北は建国以来、朝鮮半島の統一を目指している。北が核でアメリカを脅し、在韓米軍を引き上げさせれば、韓国は危機に陥る。もし中国を後ろ盾にして、核武装した南北統一朝鮮が「反日」で団結したら……。考えただけでも恐ろしい。

(3)国際社会は独裁に苦しむ北の国民を救えなくなる

北の人々は互いに監視させられ、金正恩政権に不満を抱く人は強制収容所に送られ、拷問・虐殺されている。日本の「平和主義者」は、この人権弾圧を放置するつもりだろうか。

(4)日本はお金をゆすられ続ける

北は周辺国から経済援助を引き出すために、核・ミサイル実験を繰り返してきた。韓国の文在寅大統領は、北に8億円超の人道支援をすると表明している。しかし、これは「殺さないでくれ」という身代金のようなもの。それがいつまでも繰り返される。

(5)北の核・ミサイルが独裁国家やテロリストの手に渡る

北は世界のミサイル市場の40%のシェアを誇る。核やミサイルの発射実験は"新商品"のPRでもある。そうした兵器がイランやパキスタン、シリア、そして世界中に散らばるテロリストの手に渡れば、国際社会はさらに混沌とする。

以上、5点を挙げたが、核の実戦配備を許すことは、北という猛獣を檻から出してしまうことを意味する。

こうした悪夢のシナリオを念頭に置くと、「北を止められる確証がないまま、対話ありきで考えること」は、安全策とは言えないことが分かる。

北の核は「生命維持装置」

北朝鮮が6回目の核実験を行った際、平壌で行われた祝賀大会。

孫子の兵法には、「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」(謀攻篇)とある。そのアドバイスに従って、一度、北の立場に立ち、「対話」や「経済制裁」が効くか考えてみたい。

茨城県ぐらいの経済規模の小国が核を保有して、大国を黙らせる――。その「ロマン」と「必死さ」を想像しなければならない。

そもそも北が核・ミサイル開発を決意したきっかけは、1950年代の朝鮮戦争で、朝鮮半島の統一をアメリカに阻まれ、体制崩壊の危機に直面したこと。初代最高指導者の金日成氏は、「ミサイルこそ、国の体制維持と、半島統一という国家目標の鍵になる」と考えた。

2代目の金正日氏も、イラクのフセイン大統領やリビアのカダフィ大佐などの独裁者の最期を見て、「核がない国はアメリカに潰される」と確信した。

3代目の金正恩氏にとって、米本土に届く核ミサイルの開発は金王朝の「生命維持装置」であり、ロード・オブ・ザ・リングの「指輪」のような存在だ。

だからこそ、どれだけ国民が飢餓に苦しみ、空腹のあまり木の根や皮を食べ、多くの山がはげ上がり、数百万人の餓死者が出ても、核・ミサイル開発をやめなかった。

いよいよ来年、建国以来の悲願が叶おうとしている。もし読者が金正恩氏の立場だったら、「対話してやるから、核はあきらめろ」「核をやめないと、Tシャツを買ってやらないぞ」などと言われたところで、核を放棄するだろうか。

逆に言えば、トランプ氏は、悪夢のシナリオを阻止するために、具体的に行動せざるを得ない状況と言える。

核で追いつめ「無血開城」を

では、トランプ氏はどう行動すべきか。

日本人は得てして、「必要最低限の戦力で武装解除させる」のが賢い選択と考えがちだ。しかし「戦力の逐次投入」こそ、先の大戦で日本軍が敗北し、オバマ前政権が中東を泥沼化させた要因だった。

そんな人間の思考の罠を見抜いていたのか、孫子はこのようにアドバイスしている。

「味方が十倍であれば、敵を包囲する」(謀攻篇)

思い出されるのは、豊臣秀吉が行った「備中高松城の水攻め」や「小田原攻め」だ。圧倒的な数の軍勢で敵の城を囲み、どんなに抵抗しても勝てないことを悟らせる。そして、「城主が切腹すれば、城兵5000人の命は助ける」などという条件をのませ、無血開城させた。

アメリカも、圧倒的な軍事力を見せつけて包囲するのが合理的だろう。

例えば、北の近海に空母を3隻浮かべ、米西海岸からは核を搭載したICBMの発射をちらつかせる。領空近くには複数の戦闘機や爆撃機を飛ばし、核兵器以外の通常兵器で最大の破壊力を持つと言われる大規模爆風爆弾(MOAB)を落とせる体制をつくる。

北の軍事拠点などは、艦船から発射されるトマホークミサイルで破壊できる(左)/軍事行動の際、北上空に多数展開されるアメリカのB-52爆撃機や戦闘機(中央)/一つの空母艦隊から、数十の戦闘機が発進し、無数のミサイルが発射される(右)

一見、「大国が大人気ない」ようにも見える。しかし、孫子は「敵国を傷つけずに降服させるのが上策」(謀攻篇)とも語っている。圧倒的な戦力差を見せつけて、間違った考えを起こさせないことも「大人の戦い方」かもしれない。

「名誉の亡命」という逃げ道

しかしここで、孫子はこう釘を刺している。

「包囲した敵軍には必ず逃げ口をあけ、進退きわまった敵をあまり追いつめない」 (九変篇)

確かに、金正恩氏が、「本当に殲滅されてしまう」と感じたら、「死ぬ前に一矢報いてやろう」などと考え、韓国や日本にミサイルを撃ち込む危険性がある。そうさせないためにも、金氏に逃げ道を与えるのだ。

国連安保理が9月11日に決議した北への経済制裁からは、「金氏の海外渡航の禁止」や「金氏の海外資産の凍結」が除外された。一般的には、慎重な中国とロシアに配慮したという見方があるが、結果的に、金氏に「亡命」という逃げ道を残した形になっている。

英紙の報道によると、「金氏はいざという時のために備えて、プライベート・ジェット2機を、24時間待機させている」という。そのプライベート・ジェットで、ロシアや中国、マレーシアなどの友好国に亡命させる余地を残すことが大事だ。

もちろん、金氏が自ら逃げることを選択するように、「名誉」というニンジンをぶら下げる必要もある。

例えば、トランプ氏がテレビ演説で、「降伏は名誉である」「潔さこそ、真の英雄の証である」「国民を巻き添えに死んでいった醜悪な人物として、歴史に名を遺さないよう祈る」などと世界に発信する。

秀吉は備中高松城を攻めた際、城主・清水宗治の切腹について、城兵たちの命を救った行為として、「武士の鑑」と称賛した。実はそれから、日本に「切腹=名誉」という構図が生まれたとも言われている。

逆に、北朝鮮の殲滅が確実となり、周辺が「この将軍のプライドによって、自分たちが巻き添えにされる」と感じた場合、クーデターが起きる可能性もある。1945年初頭、ヒトラーはガス戦を開始するように命じたが、将軍たちが反応しなかったとも言われている。

徹底的に包囲し、圧倒的な軍事力を見せつけ、追いつめた上で、無血開城を迫り、"英雄"として逃がす――。

これは金氏にとっても、北の国民にとっても、国際社会にとっても、理想的な解決方法と言える。日本では幸福実現党も「無血開城」を訴えている。

また孫子は、「道」、すなわち「大義」や「正しい政治のあり方」が立っているかが、味方の団結力を左右し、勝敗を決めると述べている(計篇)。

トランプ氏が国連演説において、北朝鮮の体制や拉致問題などに踏み込んだのは、この「道」を確認する意味があったと思われる。日米韓で、「体制維持や核開発のために、国民を飢えさせ、弾圧・虐殺する全体主義は、存在してはならない」という共通認識を確認する必要がある。

日本としては、何ができるのか。

まずは、実際にトランプ政権が、北を軍事的に追いつめた際、日本は「包囲網」を破らないよう、最大限に協力しなければならない。

そして、孫子のこの言葉を肝に銘じる必要がある。

「戦争の原則としては、敵の攻撃してこないことを頼みとするのではなく、攻撃できないような態勢がこちらにあることを頼みとするのである」 (九変篇)

外国の攻撃がないことや、アメリカの守りがあることを前提とせずに、自分の国は自分で守れる体制をつくることが重要だ。

(本欄は本誌2017年11月号記事を加筆修正したものです)

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