ウクライナ戦争 長期消耗戦の苦しみ 見えてきたウクライナ停戦合意の兆しとは? (Part 1)【河田成治氏寄稿】
2024.08.04
《本記事のポイント》
- 深刻な兵士不足と電気不足に悩まされるウクライナの惨状
- 消耗戦が続けば国家崩壊へ
- 不発に終わった2022年3月のイスタンブール合意の内容と合意破棄に見る西側の野心
河田 成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻から、2年5ヵ月以上が経過しました。
当初にロシアが見積もった短期間での勝利という予想は大きく裏切られ、これまでロシア・ウクライナ双方が激しい長期消耗戦に引きずり込まれてきました。
ロシア側の戦死者は今年の7月までに10~14万人程度と推定されています(*1)。国防費も巨額に膨れ上がっており、GDPの6%、国家予算の3割を占めて国家財政を圧迫しています。来年度はさらに増額されるとの予想もあります(*2)。ただしロシアは石油などから得た利益をプールしてあるため、すぐに戦費が底を突くことはありません。
(*1) ロシアの遺産相続手続き件数と、ロシア連邦政府が発表する人口統計データから、戦死者数が推計されている。Медиазона(2024.7.17) 。またロシア軍の軍人の定員を115万人と定めていたところ、2023年12月に132万人に増員する大統領令に署名された。開戦前のロシア軍の実際の人数は約90万人と推定されており、その後の2022年の部分動員で約30万人、2023年の新たな志願兵が約40万人であったとすると、合計で160万人となる。ここから逆算すれば、死者が仮に12万人なら、戦線に復帰出来ない重傷者はその倍程度の12~24万と推測でき、合計で24~36万が損耗したとすれば、160万人から減じて130万人近くなる。このことからも、ロシア軍人の死者は10~14万人程度と考えるのが妥当だろう。
(*2) THE BELL(2024.6.21)
深刻な兵士不足と電気不足に悩まされるウクライナの惨状
ウクライナ軍はそれ以上の戦死者を出していると推測されます。2022年10月30日、侵攻から8ヵ月が経過した時点で、欧州連合(EU)の欧州委員会フォンデアライエン委員長は、「10万人のウクライナ兵士が死亡したと推定される」と語っています。この発表についてウクライナ側は否定し、またその後にEUは公式発表から削除しましたが、戦況からは妥当な人数ではないでしょうか。フォンデアライエン委員長の発言から1年9ヵ月が経過した現在、ウクライナ側の戦死者はその倍以上いてもおかしくありません。
ロシアの4分の1以下の人口しかないウクライナは、兵士不足に直面しています。ウクライナ政府は今年5月の新たな動員令によって対象年齢を27歳から25歳に引き下げたほか、さらに囚人の動員も可能にするなどして、現在、毎月3万人ペースの動員をなんとか進めていると報道されています。
ただしウクライナ軍の不足する予算が足枷となって、ロシアに反撃が可能となるだけの兵力(人件費)を捻出することは不可能だと見ています。
またウクライナの電力インフラの大部分がロシアのミサイルによって破壊されたため、電力が不足して経済活動や生活に深刻な影響が生じています。
ウクライナは、戦争前に5600万kWの発電施設容量を持っていましたが、戦争が勃発すると、まずザポリージャ原子力発電所がロシアの手に渡って約610万kWを失い、さらに今年2024年のミサイル攻撃では、大規模な火力発電所と水力発電所のすべてが損傷して合計で2970万kWを失ったため、ウクライナの発電電力量は2000万kW以下まで落ち込み、戦前の35%にまで低下しています。
現在ウクライナでは計画停電が行われていますが、欧州が熱波に襲われる中、エアコンが使用出来ない、冷蔵庫で食料品が保存できない状況にあることが報道されています。なお、節電状態から脱するには数年間かかるとも見られています。
HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の世界情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。
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