ウクライナ軍の反攻作戦の前哨戦はもう始まっている! ゼレンスキーは戦争のエスカレーションを望んでいる!? (前編)【HSU河田成治氏寄稿】
2023.05.07
《本記事のポイント》
- 核戦争へのエスカレーションの恐怖
- 厚かましさにも程があるウクライナの支援要請
- ウクライナ軍のロシア補給拠点攻撃は反攻作戦の前哨戦
河田 成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
ブリンケン米務長官は5月2日、米フォックスニュースのインタビューに対し、ウクライナ軍が計画しているロシアへの反攻作戦に対して、次のように答えました。
「ウクライナ側が今後数週間のうちに反攻を考えていることは承知しています。それがどうなるかを見てみましょう。そして最終的には、戦場で勝つことが、正義と恒久平和に向けての実質的な交渉を始める最良の方法であり、おそらく最短の方法なのです」
この今後数週間という発言が正しいとすれば、ウクライナ軍の反攻作戦は、5月から6月のどこかの時点で開始される可能性があります。
さらにブリンケン氏の発言からは、ウクライナ側の反攻作戦における勝利が、平和交渉へとつながる道であると信じているように思われます。
一方、米軍トップのミリー統合参謀本部議長は、1月に長期戦は避けられないと述べたことに引き続き、5月2日の米フォーリンアフェアーズ誌の「大国間戦争を回避するためには」と題した取材に対しても、「今後数週間のうちに反攻作戦を行うかどうかは言いたくないが、彼らは攻撃と防御のどちらにも対応できるように準備している」と発言しています。
ただし、「大成功を収めて、ロシア軍の前線を全面的に崩壊させる可能性から、限定的な成功の可能性、また成功しない可能性もある」として、作戦の成否には慎重な姿勢を崩さず、さらにはこの反攻作戦で、「今年中にどちらか一方が戦争に決着をつける可能性は高いとは思えない」とも述べ、停戦と平和に向けて楽観的ではありません。
核戦争へのエスカレーションの恐怖
このようにウクライナ軍の作戦が停戦につながるかどうかが不透明である一方、ミリー統合参謀本部議長は核戦争の危機も訴えました。
「西側もロシアも、核戦争へ拡大することは望んでいないものの、エスカレートする可能性はかなり現実的です」。「戦争は非常に感情的なもので、戦争には多くの恐怖、プライド、利害関係があり、そのすべてが程度の差こそあれ、同時に作用しているために、エスカレートする可能性は常にあります」とも述べ、そうならないように「常にエスカレーションリスクを管理しながら行動しています」と発言。大国間での武力衝突に発展して、双方に核戦争による壊滅的な打撃が及ぶことへの危機感をあらわにしました。
長期戦は構造的に不可避
アメリカは核戦争にエスカレートさせないために、ロシア領に届くようなミサイルの供給など、ロシア側を刺激しすぎる武器のウクライナへの供与に否定的な態度を取ってきました。
そのため、徐々に強力な兵器をウクライナに渡してロシアの反応を見るという手法だったのです。しかし作戦上の定石は、敵よりはるかに強力な戦力を一気に投入することですから、このような小出しのやり方は、作戦上の愚策である「戦力の逐次投入」というものに近いともいえるかもしれません。
言い換えれば、アメリカをはじめとしたNATO側としても、ロシア側に過激な反応を引き起こしかねない短期的な大攻勢で勝利を目指すことには慎重にならざるを得ない。むしろ少しずつ既成事実を積み上げてロシアから占領地を奪還する作戦が好ましく、長期戦への覚悟が必要になるということでしょう。
アメリカが誇る主力戦車「エイブラムス」を送るのが、秋以降になると発表していることからも、やはり長期戦を覚悟しているように思えます。
4月10日付けの米ワシントンポスト紙は、アメリカから流出した情報機関の評価が記された機密文書に、「ウクライナは、兵力、弾薬、装備の充実に課題を抱えており、ロシア占領地域の奪還を目的とした反攻作戦において、ささやかな領土獲得しかもたらさない可能性がある」とのアメリカの情報機関の評価を報じています。
厚かましさにも程があるウクライナの支援要請
このような評価をウクライナ側もアメリカから知らされていないはずがなく、反攻作戦の難しさを理解していることでしょう。
しかし、ゼレンスキー大統領が主導するウクライナは、短期的な大攻勢、つまりむしろ戦争のエスカレーションを招くような戦い方を望んでいるように思えてなりません。
ウクライナのメルニク外務次官は4月22日、ロシアの侵攻を年内で終わらせるため、西側の軍事支援は今までの10倍にする必要があるとして、「人為的な全てのレッドライン」を踏み越えて、西側諸国はGDPの1%を割くようSNS上で訴えました。
ゼレンスキー政権の戦争指導は、結果的に戦争をエスカレートさせて核戦争のリスクを高めると危惧されます。
ウクライナ軍のロシア補給拠点攻撃は反攻作戦の前哨戦
ここ最近、ウクライナ軍によるものと思われる、ロシア領内での爆発が相継いでいます。
4月29日、クリミアのセヴァストポリにある燃料タンクが炎上しました。ロシアが「セヴァストポリ市長」に任命したラズボジャエフ氏は、火災は鎮火したとし、出火の原因はドローンによる攻撃だったとコメントしました。
5月3日にも、クリミア対岸のクラスノダール地方ヴォルナの燃料タンクが炎上しました。タス通信は、地元救急隊の報道官の話として、ドローンによる攻撃を受けて火災が発生したと伝えています。さらに翌4日にも、クラスノダール地方イリスキーにある石油精製施設が炎上、同じくドローン攻撃を受けたとロシアは主張しています。
これらのドローン攻撃に対してウクライナ側の発表はありませんが、ロイター通信は、ウクライナ軍の報道官が「敵の兵站(物資補給などの後方支援)が損なわれているという事実。これは誰もが見込んでいる広範で本格的な反攻の準備だ」と語ったと報道しています。
これに先立つ4月14日、ウクライナの国家安全保障・国防評議会のダニロフ長官は、「ウクライナの防衛産業複合体は、新型兵器の開発・実験に従事しており、新型兵器のテストがクリミアで行われる可能性もある」と述べていました。この発言を受け、ウクライナのメディアは、「クリミアのロシア軍施設での謎の爆発は、ウクライナ製兵器の新型のテストかもしれない」と報道しています(*)。
いままでお話ししてきたように、反攻作戦の規模そのものは大攻勢というレベルにならない可能性があるものの、このようなドローンや新型兵器がロシア内部で使われるような今回の作戦の予兆は、どのようなロシアの反応を引き出すのか、予断を許さない局面にあると感じます。
(後編に続く)
(*)QIRIM NEWS(2023.4.14)
HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回のウクライナ情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。
【関連書籍】
いずれも大川隆法著、幸福の科学出版
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