中国に9割依存している北朝鮮経済 【澁谷司──中国包囲網の現在地】
2020.01.08
《本記事のポイント》
- 「出稼ぎ」を封じられる北朝鮮
- 中国への出稼ぎだけ"のんびり"!?
- 貿易も対中国依存度が90%
2019年12月22日、北朝鮮の労働者が世界中の滞在先から"追放"された。
2017年、国連は安保理決議2397号にもとづき、核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮に、制裁を科した。同年11月29日、同国が大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」を試験発射したためである。その制裁の一つに、ホスト国は北朝鮮労働者を2年以内(2019年12月22まで)に"追放"するという条項が含まれていた。
「出稼ぎ」を封じられる北朝鮮
約10万人と言われる北朝鮮労働者が稼ぐ外貨は、同国にとって貴重だ。米国国務省は、彼らが稼ぐ収入を年間200万~500万ドル(約2.18億円~5.45億円)と推計している。
国外で働く北朝鮮労働者は、24時間当局の監視を受ける。さらには、一日の半分以上働いても、収入のほとんどは国に没収される。それでも、北朝鮮内では人気のある仕事の1つだというから、同国の貧しさは筋金入りだ。
昨年12月初めまでに47カ国が提出した中間報告書によると、北朝鮮へ戻った労働者は約2万3000人にのぼる。ロシアは1万8533人、クウェートは904人、アラブ首長国連邦(UAE)は823人の北朝鮮労働者を帰国させた。
東南アジアの国々でも、北朝鮮労働者の帰還を促した。カンボジアでは、昨年11月30日、首都プノンペンとシェムリアップ(アンコール・ワット、アンコール・トムなどが存在するアンコール遺跡群の観光地)で、北朝鮮レストラン6カ所が一斉に閉店されたという。タイでも11月下旬までの1、2カ月の間に、2つの北朝鮮レストランが店をたたんだ。
中国への出稼ぎだけ"のんびり"!?
そんな中、経済制裁の事実上の抜け道をつくっているのが中国である。
中国は安保理決議を誠実に履行するとの立場を表明しているが、北朝鮮労働者に対しては、極めて"寛容"だ。中国内には、未だ約5万人近くの北朝鮮労働者が働いているという。
中国側としては、北の安い労働力を確保したい思惑がある。北朝鮮側としても、労働者を中国で働かせて外貨を獲得したいだろう。両者の思惑は完全に一致している。
そのためか、中朝の国境の街である遼寧省の丹東市では、北朝鮮労働者のほとんどが、12月22日になっても、慌てて北へ帰る様子がなかったという。
実際、就労ビザ(Z)で働いている北朝鮮労働者は、別のビザを取得すれば良い。例えば、交流、訪問、視察等のためのビザ(F)、中国が必要とする外国人高度人材や専門分野人へのビザ(R)である。あるいは、観光ビザ(L)や長期・短期留学ビザ(X1・X2)などもある。
もし北朝鮮労働者に中国在住の中国人親族家族(配偶者、父母、子女、子女の配偶者、兄弟姉妹、祖父母、孫子女、及び配偶者の父母)がいれば、「彼らを訪問するため」という名目でビザ(Q1・Q2)を取得し、滞在が可能となる。
このように中朝間には、いくらでも抜け道が存在する。
貿易も対中国依存度が90%
韓国国際貿易協会が2019年12月に発表した『南北朝鮮貿易報告書』によると、北朝鮮の貿易額に占める対中国の割合(米ドル計算)は2001年に17.3%だったが、昨年に91.8%になった。5.3倍も上昇している。
実は日本は2001年時点で、北朝鮮にとっての第1位の貿易相手国だった。しかし。自民党政権による独自経済制裁で2007年から貿易が停止されている。
韓国も2010年時点で、北朝鮮の貿易相手国として第2位だったが、2016年の開城工業団地の閉鎖でほとんどの貿易がストップした。
こうして、北朝鮮の海外労働者が中国に集中し、貿易も中国にほとんどを依存するようになった。
北朝鮮の生殺与奪の権は今、中国が握っている。
拓殖大学海外事情研究所
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
【関連書籍】
『北朝鮮の実質ナンバー2 金与正の実像 守護霊インタビュー』
大川隆法著 幸福の科学出版
【関連記事】
2019年12月28日付本欄中国内でも評判ガタ落ちのファーウェイ 【澁谷司──中国包囲網の現在地】
「自由・民主・信仰」のために活躍する世界の識者への取材や、YouTube番組「未来編集」の配信を通じ、「自由の創設」のための報道を行っていきたいと考えています。
「ザ・リバティWeb」協賛金のご案内
YouTubeチャンネル「未来編集」最新動画