天安門事件から30年 - 滕彪氏インタビュー 習近平体制は史上初のハイテク・ファシズム

2019.06.09

2019年7月号記事

Interview 2

中国民主化運動の指導者が語る

習近平体制は史上初のハイテク・ファシズム

中国から亡命し、現在は民主化運動のリーダーとしてアメリカで活動する人権派弁護士に、中国の現状について聞いた。

中国出身の人権派弁護士

滕彪

(とう・ひょう) 1973年、中国吉林省生まれ。北京大学法学博士。ノーベル平和賞を受賞した劉暁波氏が起草した「08憲章」の共同署名者。当局に2回逮捕された後、2014年にアメリカに亡命。今年2月の米国議会の公聴会で、中国の人権状況について証言。現在は米ハーバード大学客員研究員。

──亡命までに中国ではどのような活動をしていましたか?

2003年に人権擁護のための法的支援を行う「公盟」を設立し、活動しました。私は3人の創立者の1人です。「公盟」は、09年に指導者の一人である許志永が、当局に逮捕されるなどの試練を受けつつも、やがて民主化などを目指す「新公民運動」に発展。中国各地で草の根の人々が参加しました。しかし、習近平政権は13年に関係者を逮捕し、この運動を弾圧しました。

ナチスを超える全体主義国家

──現在の中国の状況をどのように見ていますか?

政治哲学者のハンナ・アーレントは著作『全体主義の起源』で、ヒトラーのナチズムが"右"の全体主義だとすれば、共産主義は"左"の全体主義であり、どちらも同じ類型だと分析しました。1949年以来の中国共産党政権は、ナチスを超える全体主義国家なのです。中国ウォッチャーたちは、1980年代以降のトウ小平の「改革開放」路線に注目して、「共産党員が信じているのは、カネと権力だけだ。もはやマルクス主義は過去のものだ」と見ています。経済成長を目指す権威主義の体制にすぎないというのです。しかし、一党独裁の政治体制を見れば、実態はファシズム(全体主義)と同じです。

2012年に習近平政権が始まると、弾圧は強化されました。人権活動家、弁護士、学者、キリスト教の地下教会、法輪功、チベット仏教、ウイグル人のイスラム教徒らが標的となり、次々に投獄されています。100万人以上が強制収容所に送られている新疆でのウイグル人弾圧は、今世紀最大級の迫害です。習近平は「中国の夢」をスローガンに掲げました。しかし、自由も民主主義もない中国社会の現実は、「悪夢」でしかありません。

史上初のハイテク・ファシズム

いま中国に生まれているのは、新しいタイプのファシズムです。ネット検閲や顔認証カメラといったテクノロジーにより、ヒトラーやスターリンの時代にもなかった高度な監視社会が出現しています。

こうした監視システムによる個人の識別管理で、弾圧への抵抗は、ますます難しくなっています。このようなハイテク・ファシズムは、人類が史上初めて経験するものです。

ジョージ・オーウェルの小説『1984年』で描かれた架空の世界を超える事態が、いま中国で現実化しつつあるのです。恐るべき文明の退行現象といえます。

しかし、監視技術のためのソフトウェアや設備は、欧米の多国籍企業によって提供されてきました。表向きの市場経済と、一党独裁による国家主義が合体しています。

中国全土にAI(人工知能)と連動した監視システムが張り巡らされている。写真:ロイター/ アフロ

自由を脅かされるアメリカ

──アメリカにおいて中国の影響を感じることはありますか?

アメリカ国内でも、企業だけでなく、大学、シンクタンク、メディアなどいたるところで、中国政府を恐れた自己規制が行われています。2015年には、アメリカ法曹協会が私の著書の出版をキャンセルする出来事もありました。有名大学での講演が中止になったこともあります。

全世界に500以上の孔子学院(*)がありますが、アメリカでは100カ所以上も設置されています。受け入れた大学では、政治的に差し障りのあるテーマが避けられ、学問の自由が脅かされています。

ハリウッドでも、中国政府を刺激する内容の映画がなくなっています。中国での配給収入を失うからです。有名俳優のリチャード・ギアも、ハリウッドから締め出されました。チベットの自由化を支援する活動をしているからです。

(*)中国政府が海外の大学と提携して設置している、中国語や中国文化の普及のための教育機関。

イギリスで孔子学院会議に出席する習近平・国家主席。写真:AP/ アフロ

消し去られた事件の記憶

──6月4日は、天安門事件から30周年になります。

1989年の学生による民主化運動は、戦車とマシンガンによる弾圧で挫折しました。事件の直後、もはや共産党政権が永続するはずはないと思われました。報道陣の目前で、あまりにも多くの人々が虐殺されたからです。統治の正統性が失われたことは、誰の目にも明らかでした。

しかし、30年が経った現在、中国共産党は検閲とプロパガンダによって事件の記憶を消し去りました。中国政府は、死者の多くは兵士であり、学生や市民ではなかったとして、虐殺を否定しています。正確な死者の数すら、知ることができません。

海外の研究者も、天安門事件を取り上げれば、中国政府からはビザが出なくなります。大学もシンクタンクもメディアも沈黙し、この問題に触れようとしません。しかし、真実を改ざんし、隠ぺいし続けることはできないはずです。

日本は中国民主化の支援を

──日中関係をどう見ますか?

中国が世界第二の経済大国になった結果、世界の脅威となっています。これに対して、成熟した民主主義の国家である日本は、大国としての役割を果たすべきです。日本政府が、中国政府との関係に配慮して、人権問題に触れないのはよくないことです。

日本政府は、中国の人々と中国政府を区別して考えるべきなのです。中国共産党は、中国人を代表しているわけではなく、中国の人々を弾圧しているのです。中国共産党との友好は、中国の人々を見捨てることを意味します。中国人も、他国の人たちと同様、自由と人権の尊厳を求めているからです。

いま習近平政権は、「一帯一路」構想によるインフラ投資を通じて、自由を抑圧する「中国モデル」を世界に輸出しようとしています。民主主義の国々が団結しなければ、中国の脅威に対抗することはできません。日本政府が、人権問題を尊重し、中国の民主化を支援することを期待します。

(聞き手 藤井幹久・幸福の科学国際政治局長)

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