パリの暴動デモで窮地に陥るマクロン仏大統領 グローバリズムの終焉は近い?
2018.12.05
Frederic Legrand - COMEO / Shutterstock.com
《本記事のポイント》
- フランスで、燃料税の増税に反対する大規模なデモが起き、一部が暴徒化
- マクロン大統領のグローバリズム的な政策に反感が高まっている
- フランスをはじめとするEU各国に必要なのは、真の国家主権と愛国心
フランスのマクロン大統領が、窮地に立たされている。
パリ中心部や南部マルセイユなどで1日、燃料税の増税に反対する大規模なデモが勃発した。参加者は約13万6千人に上り、400人以上の逮捕者が出た。参加者の一部が暴徒化し、シャンゼリゼ大通りでは車から火の手が上がり、店のガラスは割られ、散乱している。
こうしたデモは11月中旬から続いている。参加者の多くは、地方に住む中間層や労働者階級。トラック運転手などが着用する"労働者の象徴"である黄色いベストを着ているため、「黄色いベスト」運動と呼ばれている。
彼らが訴えているのは、「燃料税増税への反対」だ。マクロン大統領は、地球温暖化対策でエコカーを普及させるべく、来年1月から軽油やガソリンなどの増税を行おうとした。その際、仏自動車大手ルノーの電気自動車の購入には補助金をつけるという。
だが、車移動が不可欠な地方在住の国民からすると、燃料費の値上がりは死活問題。電気自動車を買おうにも、そんな金はないという人が多い。
しかも、マクロン氏の「(軽油やガソリンを買うお金がなければ)電気自動車を買えばいい」という発言が火に油を注いだ。まるで王妃マリー・アントワネットの「パンがなければ、ケーキを食べればいい」を想起させるような発言に対し、国民が激怒したのは当然だろう。
強い反対に遭ったフランス政府は4日、燃料税の増税を延期すると発表した。
グローバリズムVS自国ファースト
政界入りする前、ロスチャイルド銀行の副社長格を務めていたマクロン氏は、典型的な「グローバリスト」と評されている。大企業を優遇する自由主義的な政策を実行し、都市部のエリート層から支持されているものの、地方の中間層や労働者を置き去りにしていると指摘されている。彼らの不満は募っており、政権の支持率は2割台に低迷している。
「さびれたラストベルト(錆びついた工業地帯)に雇用を生み出す」と訴え、それを実現しているトランプ米大統領とは正反対の考え方だ。実際マクロン氏はトランプ氏とはそりが合わず、米仏関係は悪化している。
そんなマクロン氏は11月、「米中露から身を守るため、欧州に欧州軍が必要だ」と語り、「古い悪魔が再度目覚めつつある」として、ナショナリズムや孤立主義を批判。トランプ大統領をナチスの再来と思わせるかのような演説も行い、欧州連合(EU)の結束を唱え続けている。
グローバリストであるマクロン氏には、トランプ氏が掲げる「自国ファーストの重要性」、つまり、「国家意識の大切さ」が分からないのだろう。
トランプ氏の「自国ファースト」は、決して自己中心的な考えではなく、「自分の国のことは自国で責任を持つべき」という国家主権や愛国心を尊重するものだ。一方のマクロン氏が守りたがっているEUは、本物の国家意識や愛国心が欠如し、他国に依存する構造的な問題がある。
つまり、米仏関係の間に起きているのは、「グローバリズムVS自国ファーストの戦い」だ。
トランプ氏はマクロン氏に対し、「EUを離脱して、アメリカと2国間貿易協定を結んだほうが得だ」と持ちかけ、フランスでもEU離脱を訴える声が強まっている。
今後、EU解体の流れは止まらないだろう。フランスも、真の国家主権や愛国心を持ったリーダーが立たなければ、国家の漂流は避けられない。
(山本泉)
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