ゴーン容疑者逮捕で見えた、ルノー・仏政府の危うい「対中傾斜」
2018.11.29
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《本記事のポイント》
- フランスは「ルノー・日産連合」の瓦解を防ぎたい
- 日産はフランスの不当な介入があれば、出資を引き上げられる
- ルノー、仏政府の対中傾斜からの決別は、日本の国益にかなうとの指摘も
仏自動車大手ルノーと日産自動車の関係について、フランスのルメール経済・財務相は27日、「パワーバランスの変化を望まない。(現状の)権力の分配は良好に思える」と述べ、日産の資本関係の見直しの動きをけん制した。
ルメール氏は以前に、「ガバナンス体制の基本は変えないことを、世耕弘成経済産業相と合意した」と発言。一方の世耕氏は、「我々(日仏政府)は株主でもない。人事やガバナンスを含めて政府が口を出すべきではない」と反論し、両政府に温度差があることが浮き彫りになった。
フランス政府は、「ルノー・日産連合」を維持したい考えだが、その関係を保つことは難しいだろう。
日産とルノーは2015年、「日産の経営判断に対して、ルノーによる不当な干渉を受けた場合、ルノーへの出資を引き上げる権利を有する」ことで合意していた。フランスからの介入を防ぎたい日産側としては、取締役会の決議によって増資を決定し、ルノーの議決権を無効にできる。そうすれば、ルノーへの子会社化の阻止につなげられる。
ルノー、仏政府の対中傾斜は大丈夫なのか!?
フランスは、世界一の自動車メーカーを誕生させる野望を抱いていた。それが今回、とん挫しかねない状況に陥っている。だが、世界一に至るスプリングボードが、「中国市場」であったことが気になる。
ルノーや日産などは10月に、中国の自動運転開発企業「ウィーライド エーアイ」への出資を発表。昨年12月には、ルノーが中国の華晨中国汽車(ブリリアンスチャイナ)との間で合弁会社を設立し、EV(電気自動車)を生産するなど、対中傾斜を鮮明にさせていた。
ルノーの中国への投資の拡大は、フランス政府も軌を一にする動きでもある。
マクロン仏大統領は今年1月に中国を訪れ、中国の経済圏構想「一帯一路」について、「重要な提案であり積極的に参加したい」と表明。両国は、10億ユーロ(約1350億円)規模の投資ファンドを創設するとした。
アメリカから貿易戦争を仕掛けられている中国は、トランプ米政権と距離を置くフランスやドイツに楔を打ち込み、「対中包囲網」をかいくぐろうとしている。そうした大国の思惑が渦巻くなかで、日産がルノーの子会社になることが、果たして日本の国益にかなうのか疑問であるとの指摘もある。
そうした見方に立てば、日産会長だったカルロス・ゴーン容疑者の逮捕劇も違った形に見えるだろう。
(山本慧)
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