2020年東京オリンピックのメーン会場となる「新国立競技場」建設計画について、膨れ上がった総工費をめぐる混乱が続いている。
安倍晋三首相は17日、「白紙に戻す。ゼロベースで計画を見直す決断をした」と、デザイン変更の方針を明言。監督官庁トップの下村博文・文部科学相は同日、「半年かけてコンペから審査まで終える」と述べたが、今後の明確な見通しは立っていない。
今回の安倍首相の「白紙」表明は、下村氏が6月末、当初の予算(1300億円)から2倍近くまで膨れ上がった2520億円の計画を了承した矢先のことだった。
見直す機会はあったが決断できず
「白紙」表明を受け、野党は政府の対応の遅れを一斉に批判。「無責任で杜撰な進行管理により、余分な設計費や違約金がかかる」(維新の党・松野氏)など、下村氏の責任を問う声が相次いだ。
18日付毎日新聞によると、建設計画を見直す機会は何度もあった。最大の分岐点は「総工費が約3000億円に膨らむ」という可能性が顕在化した2013年10月時点。しかし、キーマンである下村氏は、業者から「デザインを抜本的に変更すると、工期が間に合わなくなる」と言われ、見直しの決断がつかなかったという。
同日付朝日新聞も、今年6月に建築家の槙文彦らが見直し案を提言したが、下村氏は「ゼロから全く見直すということは、今現在は考えていない」と発言していたことを指摘する。
計画の見直しが遅れたツケは大きく、総工費や工期、今後の事業推進体制など、先行きは見えない。お金の話であまり細かいことは言いたくないが、総工費が当初の2倍に膨れ上がるというのは、あまりも杜撰だ。国民の血税を使って国家を経営することが政治家の役割と考えると、やはり、下村氏の責任は重い。
経営者にはバランス能力、先見性、社会貢献マインドが求められる
多くの人を巻き込んで事業を成功させる経営者には、「バランス感覚」が求められる。金銭面の「収入・支出についてのバランス感覚」や、人材面の「適材適所」などは事業を行う上での基本だろう。
また、リーダーは不確実な未来を見通す「先見性」を持ち、自分の事業やそれを取り巻く環境をイメージしつつ、ビジョンを示したり、リスクを管理する重要な役割を負う。
そして何より、リーダー自身が自らの利害を超えて「社会に貢献したい」と日々願うことで、人間力を超えた成果を生み出すことができる。
このような能力と徳を兼ね備えたリーダーの下であれば、「国民みんなで祝福できる、世界の人々から称賛される大会にしていきたい」という安倍首相の願いも実現できるはずだ。その意味で、首相自身のリーダーシップに対しても反省を求めたい。(真)
【関連書籍】
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2015年6月3日付本欄 2020年東京オリンピックで、日本と世界を「Think Big!」に
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2013年11月26日付本欄 東京五輪、新国立競技場への批判に見る「貧乏神思想」に注意