最近フランスでユダヤ人に対する暴行が増えていることを、このほど、米インターナショナル・ビジネス・タイムズ紙が報じた。

今年1月から5月の間に、508件もの暴行事件が起こり、昨年の同じ期間に起きた276件から84%も増加している。同紙は、1月に起きたシャルリー・エブド襲撃事件の際、犯人たちがユダヤ人の店を襲撃したことが、逆説的ではあるが、「反ユダヤ主義」を増幅させる引き金の一つになったと推察する。

しかし、同紙が指摘するように、襲撃事件前の2013年から14年にかけて、暴行事件が倍になっていることから、ユダヤ人暴行の上昇傾向は、それ以前から始まっていた。

なぜ、ユダヤ人に対する暴行が、これほど増えているのだろうか。

もちろん、フランス(及びヨーロッパ全土)で、イスラム系移民が増えていることも原因の一つだろう。イスラエル・パレスチナ問題に見られるユダヤ教徒とイスラム教徒の対立は、ヨーロッパにも波及しているのだ。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ヨーロッパのユダヤ人たちに対し、「あなた方の故郷・イスラエルに帰ってきなさい」と呼びかける。だが、ヨーロッパ各国の指導者たちは、「ユダヤ人はヨーロッパの一部である」とし、彼らを守ることができると主張する。

しかし、こういった指導者たちの考えとは裏腹に、ユダヤ人はイスラム系以外の人々からも排斥の対象となることが多い。歴史的に見れば、反ユダヤ主義者の最たるものがナチス・ドイツだろう。多くの人種が入り乱れるヨーロッパで、なぜヒトラーはあれほどまでにユダヤ人を憎悪したのか。

反ユダヤ主義の起源についてはいくつかの解釈があり、ユダヤ人に対する排斥感情がどこから生まれているのかは分かりづらい。だが、その大きな要因の一つが、やはり「イエスを殺した人々」という業があるからではないだろうか。その考えがキリスト教圏の欧米諸国に根強く残っており、それがさまざまな形の反ユダヤ主義として現れている。

それに加えて、現代ではユダヤ・イスラム間の対立がある。

もちろん、ユダヤ人に対する暴行や排斥行為が正当化されるわけではない。ただ、ネタニヤフ氏が主張するような「ユダヤ人はユダヤ人が守る」といった考えだけでは、問題の根本的な解決にならないだろう。

やはり、イスラエル建国時にその土地から追い出したパレスチナ人たちに誠意を見せることで、イスラム圏との和解への第一歩とすべきではないだろうか。それこそが、ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教を導いてきた神の願いでもあるはずだ。(中)

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2015年1月15日付本欄 フランスからユダヤ人が脱出している 異文化をまとめる国家意識

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2015年4月号記事 中東の憎しみの連鎖を断つには――国際政治にも「許し」を(Webバージョン) - 編集長コラム

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