フランスからユダヤ人が脱出していることを、欧米各紙が報じている。

理由は、ここ数年、フランス国内でユダヤ人に対する暴行の件数が増加していること。2012年にはアルカイダを信奉するアルジェリア系のフランス人男性がユダヤ人の子供3人とラビを殺害した。昨年の5月には、同じくアルジェリア系フランス人のメヒディ・ネンムーシュが、ブルッセルズのユダヤ人博物館で4人を殺害している。

また、今月7日フランス・パリでシャルリー・エブド紙がアルカイダ系のテロリスト2人組に銃撃され、その後、2人組の同胞とされるセネガル系フランス人が、ユダヤ人が経営する店に立てこもり、店主以下数人を人質に取った。この際、4人のユダヤ人が犠牲となっている。

ユダヤ人とイスラム教徒との間には、中東のイスラエル・パレスチナ問題が対立の火種となっている。しかし、こういった宗教がらみの襲撃だけでなく、フランスに住むユダヤ人は、日頃の生活の中でも、嫌がらせなどを受けているという。そこにはユダヤ人に対する差別意識が存在する。

これらの事件を見たフランス国内のユダヤ人たちの間には、緊張が走っている。実際、2000年から12年までの間、フランスからイスラエルに移民するユダヤ人の数は年間1000~3000人だったのに対し、13年には3300人、14年には7000人以上と、増加傾向にある。

英ジューイッシュ・クロニクル紙のジェームズ・ポラード氏によると、1年半前には50万人を数えたフランスのユダヤ人口は、数年以内に40万人に減少しかねないという。

しかし、圧迫感を感じているのはユダヤ人だけではない。最近、ドイツのドレスデン市で、反イスラム移民を掲げる2万5千人もの人々がデモを行い、このデモに対抗する10万人の反デモ隊も駆けつけた。ヨーロッパ内部で移民や人種問題が激化していることは疑いようがない。

戦後、国民のアイデンティティーと国家を分けるための反ナショナリズム(反国家主義)と、多民族主義・多文化主義を掲げてきたヨーロッパで、なぜこのような軋轢が生じるのだろうか。

それは、反ナショナリズムと多文化主義が根本的に矛盾しているからではないだろうか。

国家意識を否定することと、多くの文化を受け入れることは、一見、両立すると思えるかもしれない。しかし、国家意識という土台を取り除いたら、多くの異文化を一つの国の中でまとめるものがなくなってしまう。

国には、人種や民族といった目に見える共通点だけではなく、その国を象徴する「価値」が必要なのだ。それが「和の心」であったり、「自由」であったりと、国によって異なるが、それらの価値を共通する国家意識として共有することで、民族の壁を乗り越えることができる。

ヨーロッパは、反ナショナリズムという夢から醒め、それぞれの国が国家意識の中核となる価値が何であるのかを問い直すべき時期に来ているのだろう。(中)

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