ドイツで開催中のユネスコの世界遺産委員会は、「明治日本の産業革命遺産」(8県23施設)を、世界文化遺産に登録することを決めた。韓国が申請した「百済の歴史地区」も世界文化遺産に決まった。

世界遺産の決定は喜ばしいことで、観光客が増えるなどの経済効果もあるだろう。

だが、登録に当たり、「登録施設の一部では、朝鮮半島出身者が強制的に働かされた」とする韓国側の主張を受け、日本が犠牲を記憶するための施設を設ける考えを表明した点に、後味の悪さが残った。

まず指摘したいことは、当時の朝鮮半島は日本統治下にあったということだ。日本は国内法に基づいて「日本国民」を徴用したのであり、強制労働があったという明確な証拠はない。

また、戦後に結ばれた「日韓基本条約」によって、戦時中の問題は解決済みとなっている。

いまさらこの問題を蒸し返すのは、ルール違反ではないだろうか。

そしてもう一点指摘したいことは、今回の遺産登録にいたるまでの日本の外交力の弱さである。

先月行われた日韓外相会談においては、お互いが登録を目指す施設に反対せず、協力し合うという合意がなされていたはずだが、韓国側が「やはり、強制労働の現場を登録することはふさわしくない」と主張し始めた。

結局、日本側が「犠牲者を記憶するための説明をする」ということで折り合いをつけた。

登録を審議する委員会では、日本政府は「forced to work」という言葉を使った。日本政府は「強制を意味する言葉ではない」というが、英文からは明らかに強制のニュアンスが感じ取れる。曖昧な日本的表現は、残念ながら世界に通用しない。

もちろん、外相会談での合意を反故にする韓国も韓国だが、ゴネ得を許した日本も問題だ。

「強制労働」などはなかったという日本の立場を明確に主張し、日本も韓国が登録を目指す「百済の歴史地区」を支持しないとか、韓国の弱みである安全保障協力について外交カードをちらつかせるという方法もありえたかもしれない。

登録決定を受け、安倍晋三首相は「海外の科学技術と自国の伝統の技を融合し、産業化を成し遂げた姿は世界でも稀有で、人類共通の遺産としてふさわしい」と述べた。この言葉から明らかなように、本遺産は日本の優れた歴史を示すものとして登録を目指していたはずだ。

世界遺産に登録されたとしても、「アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所」のように「負の遺産」として登録されたのであれば意味がない。

交渉の現場で苦労している関係者の努力には敬意を表したいが、外交の場での安易な妥協は、相手に付け込まれるスキを与えることになる。慰安婦の強制連行をめぐる「河野談話」作成の過程で、日本はすでに学んでいるはずである。

日本の謙譲の美徳や思いやりの精神は、なかったことを認めて謝罪することとは違う。日本はそのことにそろそろ気づかなくてはならない。(佳)

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