トヨタ自動車は2015年の春闘で、過去最高水準の賃金の底上げ(ベア)を容認する見通しだという。12日付各紙が報じた。日本最大企業の動きは、他企業の労使交渉にも影響を与える。「賃上げ」への気運が高まりそうだ。

これは日本経済にとって朗報なのだろうか。

無理やりな「賃上げ」のしわ寄せ

一般的に、企業の自主性に反する形での「賃上げ」には反作用が伴う。

  • 雇用が減る――一人当たりの人件費が増えれば、新たな雇用を生むことは難しくなる。企業によっては、「非正規雇用」の増加や、「下請けの切捨て」という形で対応することもあるだろう。
  • 福利厚生費が減る――形の上で賃金を上げても、社宅の建設を取りやめるなど、福利厚生にしわ寄せが行く可能性がある。
  • 設備投資が減る――コストが増えて利益が減れば、それだけ設備投資が難しくなる。新たなプロジェクトを立ち上げたり、研究開発をしたりする費用を削れば、将来の利益に響く。

「富」が増えた結果ではない「賃上げ」のしわ寄せは、結局労働者に行く。

安倍政権の強烈な「賃上げ」圧力

もちろん、企業が充分な利益を上げた結果として、あるいは労働力を確保するために、自主的に「賃上げ」を行うことに問題はない。

しかし、今回の「賃上げ」の背景には、政府の強い要請がある。安倍政権は、「国民の賃金を上げれば、消費が増え、景気が回復する」と考えている。特に、昨年の消費税増税による景気減速を打ち消すためにも、「賃上げ」への期待は大きい。

政府の「賃上げ」圧力は相当に強かった。2013年には甘利明経済再生担当相が、「賃金を上げないと恥ずかしい企業だという環境をつくりたい」と述べたことは波紋を呼んだ。昨年12月には、政府は経済界、労働団体の代表らと「政労使会議」を開催し、経済界に「賃金引き上げに向けた最大限の努力」を促す合意文書まで作成した。

トヨタ自動車のベアも、苦渋の決断だったことが伺われる。トヨタ自動車は、円安の影響で3月期の営業利益が過去最高を更新する見込みで、それが「賃上げ」圧力にもつながっていた。しかし、2012年3月期まで4期連続で営業赤字が続いていた。賃上げによる数十億円規模のコスト増は、企業の先行きに大きく影響する。経営側が、「賃上げ」にかなり慎重な姿勢を示していたことは報道されていた(11日付産経新聞電子版)。

こうした形での「賃上げ」が増えても、「景気の好循環」は実現できず、経済に思わぬダメージが及ぶ可能性が高い。

景気の課題は「賃金」ではなく「消費税」

安倍政権の間違いはどこにあるのか。それは、「景気の好循環」のボトルネックは、企業が賃金を上げず、内部留保を溜め込んでいることだと思っていることだ。円安や金融緩和の恩恵を、国民に行き渡らせる"手術"が必要だという発想だろう。

しかし本当の問題は、国民の消費マインドが冷え込んでいるところに、消費増税が追い討ちをかけたことだ。

政府がしなければいけないことは、企業の利益を無理やり労働者に流ししたり(賃上げ)、国民のお金を無理やり国庫に流したりする(増税)ことではない。商品やサービスが生まれ、取引されることで「富」が生まれる、市場に介入しないことだ。

安倍政権は、10%への消費税引き上げを中止し、税率を5%に戻すべきだ。そうすれば、消費マインドが回復し、企業利益も増え、賃金も上がる。個人の給与や、法人税が自然に増えて、税収も上がる。本当のボトルネックを解決しなければ、「好循環」はやってこない。(光)

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