トヨタ自動車はこのほど、JAグループ愛知と連携し、自社が開発したコメ生産農業法人向けの農業IT管理ツール「豊作計画」を、2015年3月より愛知県内の組合員農家に導入すると発表した。
同システムは、田植えや除草など、農家の作業計画の進捗状況をパソコンで管理するもの。自動車づくりで培ったトヨタ流の「カイゼン」を応用し、コメの生産性を高める。トヨタ社員が週3日程度、現場で指導するという。
JAなどの地方の農業組織が、企業との連携にこれほど積極的な姿勢を表すことは珍しいとして、注目を集めている。
企業と農家の連携で双方が収益を拡大
企業が農業に参入する際、本業での経験や強みを農業の分野に応用できる利点があるが、生産ノウハウの習得や優良な農地の確保といった課題に直面する。これに対し、既存農家は、生産ノウハウや耕作に適した農地を有する一方で、合理的な経営スキルの獲得やビジネスモデルのイノベーションに苦戦している。
企業と農家が連携して相互の強みを補完し合えば、共に収益を拡大することができる。
岩盤規制の緩和と時代遅れの農政の改革を
しかし、時代遅れの農地法などの農業政策が、両者の連携を阻んでいる。
例えば、農地の売買や賃貸借などの権利移動には、すべて農業委員会の許可が必要となる。農家以外の個人や企業が農地を確保し、農業に参入するには高いハードルがある。
農政改革の必要性は長らく叫ばれていたものの、大きな変化が見られなかった。農業関連の規制は、いわゆる「岩盤規制」のひとつ。安倍政権は「農協、農業生産法人、農業委員会」の三つをセットで改革し、規制緩和のドリルを入れようとしている。実際、農協の上部組織(JA全中)に改革を促すなど、一定の成果も見せている。しかし、課題はまだ多い。小規模農家を保護する圧力に反対され、改革には困難がつきまとうだろう。
「貧農史観」を打ち破り国際競争力のある農業へ
日本の農業は、農業従事者の高齢化や後継者不足、兼業農家の増加に伴う耕作放棄地の増加、農家の経営ノウハウやイノベーションマインドの不足など、数々の問題を抱えている。TPP論争で度々言われているような「農業は保護しないと潰れてしまう弱い産業だ」という日本の「貧農史観」も、こうした諸問題の解決を遅らせ、日本の農業の成長を妨げている。
しかし、世界的に見ても日本の農業は最高の技術を持つ。日本の農産物は味も見た目もよく、適切にマーケティングをして国内外に販路を開けば、無限に成長する「金のなる木」になる。世界人口が増大の一途をたどる今、たとえば日本で従来は捨てられてきた、形の悪い農作物を途上国に輸出することで、世界の食糧問題の解決にも貢献できるだろう。
やはり、大胆な規制緩和によって、企業や団体、個人まで含めて、やる気のある人間や組織が、新規に参入しやすい環境を作るべきだ。異質な産業の融合によってイノベーションを起こし、日本の農家の目を世界に向けることで、国際競争力の高い未来産業に変えていくことができる。今回のトヨタによる愛知農家の「カイゼン」が、その一歩となるかもしれない。(真)
【関連記事】
2015年2月10日付本欄 本業で稼げる農協を JA全中の指導権限廃止へ
http://the-liberty.com/article.php?item_id=9186
2014年12月6日付本欄 TPP交渉参加で農業はむしろ発展する 一貫して参加を訴える幸福実現党の先見力 【衆院選】
http://the-liberty.com/article.php?item_id=8865
2014年7月19日付本欄 ローソンが戦略特区で農業に参入 規制緩和で「稼げる農業」を育てよ
http://the-liberty.com/article.php?item_id=8147
2014年6月26日付本欄 新成長戦略は規制を「やや緩和」? さらなる市場原理の導入を
http://the-liberty.com/article.php?item_id=8063
2014年6月9日付本欄 国際競争力を高める農協改革を! JA全中の廃止容認へ
http://the-liberty.com/article.php?item_id=7967
2010年8月号記事 人生の羅針盤 農業の未来をクリエイトする