安倍政権の「成長戦略」の一つの柱である、農業分野の規制緩和が前進しようとしている。政府・与党は、農業協同組合法に基づき、全国農協協同組合中央会(JA全中)が地域の農協を指導・監査する権限について、5年後をめどに廃止する方向で最終調整に入った。政府は、早ければ今秋の臨時国会にも農協法の改正案を提出する見通しで、JA全中の廃止を容認することになる。
安倍晋三首相は5月に開かれた産業競争力会議で、農業の国際競争力強化に向けて「農業委員会の見直しと農地を所有できる法人の要件見直しの具体化を図りたい。農業協同組合(JA、※文末に解説)のあり方についても抜本的に見直し、3点の改革をセットとして断行する」と述べ、改革への決意を表明した。また、規制改革会議も報告書の中で、JA全中の画一的指導が農業を弱体化させていると指摘している。
JA全中が指導権限などを失えば、農協法に基づき、地域農協などから賦課金を集めて運営する現状の体制を持続できなくなる可能性がある。その場合、JA全中は存廃も含む組織見直しに迫られることになる。
そもそもJAは、農家がまとまって活動することで、農産品の価格を維持し、農機具や肥料を安く仕入れて農家に供給するための組織だが、「十分に役割を果たしていない」との不満は根強い。農水省が昨年、農家を対象に行った調査では、JAの資材供給について「満足していない」が最多の44%で、その理由の74%は「資材価格が高い」だった。
また、国内の農産物の約半分はJAグループを通し集荷販売されるが、集荷量が多いほどJAの利益になるため、付加価値の高い農産物を生み出すより、規模を追いがちになるという指摘もある。競争がなく、農機具などを安く仕入れるコストマインドなども薄い現状もあり、一般企業のような効率化や企業家精神が発揮されにくい状態が問題視されてきた。
政府の規制改革会議は、JA全中を頂点とした中央会制度の廃止のほか、農産物の集荷販売を担う全国農業協同組合連合会(JA連合)の株式会社化、農協の金融事業の農林中央金庫への移管などを提案し、農業の競争力強化を目指している。
これら政府の農協改革案に対して、JA全中の万歳章会長は6月5日の記者会見で、「組織そのものを壊す提言がなされたことに、かつてない危機感を覚える。改革ではなく組織の分断を図る内容」と批判した。
確かに、JAグループが農業従事者や農業を営む法人にとって必要な面があることは事実だが、「新生・農協」が農業の国際競争力を飛躍的に高めることに貢献することがより期待される。各都道府県の農協が主体的に地域の農業振興に取り組む環境を整え、地域の特性に合わせた自由で新しい発想が生み出されていくことにより、日本の農業のさらなる発展が実現されることになる。
(HS政経塾 松澤力)
※解説
農業協同組合(JA)は、農業従事者や農業を営む法人によって組織された協同組合であり、各都道府県に本部や支店がある。各支店や市町村の農協では、営農指導や融資・貯金などの窓口業務も行っている。基本的には各地にある個別の農協組織の集合体だが、これらを取りまとめる全国組織がいくつかある。全国組織の中で、全国農業協同組合中央会(JA全中)は、グループ全体の方針決定や地域農協の指導を行うための組織。その他に、農産物の集荷や販売を一手に担い、資材販売なども行っている全国農業協同組合連合会(JA全農)、生命保険や損害保険のサービスを提供する全国共済農業協同組合連合会(JA共済)、融資や貯金などのサービスを提供する農林中央金庫などの全国組織がある。
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