安倍晋三首相はこのほど行われた参院本会議の代表質問で、有給休暇の取得推進を進める考えを強調した。

この発言は厚生労働省がまとめた、企業に対して従業員に年5日間の有給休暇取得を義務付けることなどを盛り込んだ、賃金に関する最終報告書を受けてのもの。

従来の制度では、多くの場合、労働者の申請書を承認・許可して初めて有休を取得できたが、職場への遠慮から半数が取得をためらったという。新しい制度では、従業員を休ませることを企業に義務付けることで、有休の取得率を上げ、仕事の生産性を高める狙いがある。

有休取得の義務化については、まもなく通常国会で審議されるが、ダイヤモンド・オンラインは、このほど掲載したコラム記事で批判している。

日本人は働き過ぎではない

記事では、日本の企業の休暇数は有休と祝祭日を合わせると諸外国と比べて少なく、日本人は働き過ぎだ、という議論を否定。その上で、法規制と義務化を極小化することが組織の飛躍的な成長を実現するという論調を支持し、有休取得の義務化に疑問を呈している。

この記事の指摘は至極真っ当なものと言える。有休をめぐる議論の裏には「長時間労働=悪」という見方があると考えられるが、これは果たして正しいものか。

ビル・ゲイツは寝食を忘れて働いた

「仕事を通じて世の中を良くしたい」などと思う人の中には、「有給休暇」という概念そのものがない人もいるだろう。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズは平日も休日も関係なく働き、一代で世界的大企業を築き上げた。

起業などをして何か新しい価値を世の中に提供しようとしている人々にとって、有休取得の義務化は仕事上の弊害にもなり得る。本来、有給休暇を取るか否かは個人の自由であり、もっと働きたいという人や、企業が成長しようとする意欲に、政府が介入すべきではないはずだ。

倒産したら誰が責任取るのか

有休の義務化は、企業にとってマイナス要因にもなり得る。

デフレが続く中で、経営の厳しい企業も多い。もし、経営状況の厳しい企業で、義務だからといって多くの社員が有休をとり、その結果、倒産でもしたら、どうするのか。仕事の生産性を高めるどころか、仕事そのものを失い、露頭に迷う社員やその家族も増えるだろう。

その後、政府は失業保険などを通じて、金銭的な保障を行わなければいけないが、そのお金は税金であり、もともと誰かが一生懸命働いて得たお金である。社員が健康で幸せに働ける最低限の法規制は必要だが、有休取得の義務化のように、政府が企業の活動を阻害してはいけない。

安倍政権は、政府が企業活動に介入する「大きな政府」ではなく、企業活動の自由裁量を積極的に増やす「小さな政府」を目指すべきである。(冨)

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2014年10月3日付本欄 一律の規制は企業の競争力を奪う 有給休暇の消化義務付けを検討

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2015年1月9日付本欄 政府が「ブラック企業」を定義する? 本物の資本主義精神は「厳しさ」を含む

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2014年10月号記事 「黒字ブラック企業を目指せ!」 - ビル・ゲイツもジョブズも人の何倍も働いていた

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