厚生労働省はすべての企業に対し、社員の有給休暇の一部について、消化を義務付ける検討に入った。日本全体での有給休暇取得率は47%ほど。これまでは社員が申し出てから上司が承認する形だったところを、上司から消化する日を訊ねることで取得を促すのだという。未消化の社員が多い企業には、罰則を科すことも検討している。3日付日経新聞が報じた。

記事では、有給消化のほか、長時間労働を減らすため、月に60時間以上の超過勤務時の賃金について、これまで中小企業では通常の賃金に25%割増していたところを、50%割増しと大企業並みにすることも検討していると紹介。政府は、長時間労働を減らし、休みを取りやすくすることで、育児中の女性の就労を促せると見ている。また、休むことで生産性も上がるとしている。

一方で、厚労省の2013年度の調査によると、有給消化率が平均よりも目立って低かった業種はサービス系や建設業系だった。デフレ下の今、サービス業などは企業間競争に勝つ方法として、これまでにないサービスを開発しようとした結果、ある程度の長時間労働になってしまう面があるだろう。また、東日本大震災からの復興と東京オリンピックの準備のために、建設業は人手不足だという。

そうした中、安倍晋三首相は、政労使会議で非正規雇用の正規化や賃金上昇を議論するよう促す発言もしている。しかし、賃金を上げ、しかも有給を消化させたり長時間労働を減らすとなれば、トータルの人員を増やす必要に迫られる一方で、ますます正社員を雇用するハードルは高くなる。その余裕がない企業は業務の一部を人件費の安い海外などに外注するほかに競争力を維持する方法はなくなってしまい、産業の空洞化を招きかねない。もちろん、競争力がなくなれば、倒産のリスクもある。

休むことで効率が上がったり、遊ぶことで柔軟な企画ができたりといった効果は期待できるが、一律に規制することは個々の企業の競争力をそぐことになりかねない。現在、建設業が忙しいように、仕事量には業界ごとに波がある。また、起業したばかりの企業が軌道に乗るまでの間は、寝食を忘れて仕事をするものだ。アップル社を作ったスティーブ・ジョブズは寝食を忘れて何週間も開発に没頭したし、日本でも松下電器の松下幸之助、ホンダの本田宗一郎などは、早朝から深夜まで研究をつづける日々を送っていた。

目指すべきは、「休みが多い人生」ではなく、「充実した人生」だ。子育て中の女性が働きやすくなるためにも、職場に近い託児所を増やすことや、子育てに向いた住宅が手に入りやすくなること、通勤インフラの充実が先だろう。政府は有給の取得を義務化する前に、やるべきことがあるのではないだろうか。(居)

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