ヤマト運輸のメール便廃止には、行政に「問題提起」する意味もある(画像は halfrain / flickr )
ヤマト運輸が、3月末でメール便サービスを廃止すると発表した。メール便で送ってはいけない「信書」が同封されるケースを防ぎきれず、利用者が刑事罰に問われるリスクをなくせないためだという。23日付各紙が報じた。
信書とは、「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、または事実を通知する文書」と定義されており、個人的な手紙や注文書、申込書などが含まれる。郵便法により、「信書」を配達できる事業者やサービスは限定されている。しかし、信書の定義があいまいであるため、利用者が気づかずに違反することがある。
そのため、メール便のサービス開始から2008年までの間に、メール便で信書を送ってしまった利用者が摘発された事例が8件あり、中には、書類送検されたケースもあった。刑事罰は300万円以内の罰金あるいは3年以内の懲役と、意外に重い。
利用者が摘発されたことを受けて、ヤマト運輸は、メール便の配達を請け負う際に、信書を同封していないかを確認する手順を加えた。それでも、利用者が摘発されるリスクを除ききれないため、サービスそのものを廃止する。
郵政民営化以前は、信書を扱うことができるのは日本郵政公社だけだった。郵政民営化後、民間業者も信書を扱うことができるようになったが、実際に民間業者が参入できたのはバイク便のような高額のサービスだけ。
少額で信書を送ることができる「一般信書便」は、「10万本のポストを設置する」など参入障壁が高すぎるため、参入事業者は現れていない。日本郵政が事実上、信書サービスの市場を独占できてしまう規制が残っていると言える。
日本郵政は今年、東京証券取引所に上場する予定だ。立派な民間会社が政府の規制に保護されている現状は、なおさら不自然だ。
ヤマト運輸は今回の決定で、日本郵政が信書サービスを事実上独占している状況に対し、「問題提起」する意味もあるという。
ヤマト運輸は信書の定義について、記された内容ではなく紙の大きさなどで定めるよう、総務省の審議会に求めていたが、昨年秋に総務省がまとめた規制緩和案に反映されなかった。
規制緩和後、他企業との競争が生じることが緊張感を生み、利用者へのサービスが向上する事例は多い。郵政民営化が行われた2000年代、郵便窓口の対応の印象が以前に比べて格段に良くなり、「民営化とはこういうことか」という感想を持った人も多いのではないだろうか。
利用者の利益につながらない規制は信書だけではない。タクシー料金がアメリカやイギリスに比べて高くなるのも、都市部の住宅が狭くて価格が高いのも、規制のせいだ。
信書サービスを独占して喜ぶのは日本郵便だけだ。利用者の選択肢を減らすことにしかならない規制を撤廃することが、国民の幸福につながる。(居)
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