政府が発行する国債の入札でこのほど、初めて金利が0%を下回る「マイナス金利」という現象が起きました。銀行などの金融機関による買いが殺到し、国債の価格がつり上ったことが原因と見られています。「金利」が「マイナス」になるなんて、普段は聞き慣れませんが、一体どういうことなのでしょうか。

お金の貸し借りの場では普通、お金を貸す人が金利の分だけ利子を受け取ります。ところが「マイナス金利」の状態になると、お金を貸す人が利子を支払う仕組みになります。つまりここでは、政府にお金を貸す側の金融機関が利子を支払い、借りる側の政府が利子をもらうということになります。

まず、国債に買いが殺到した理由について考えてみましょう。

銀行などの金融機関は通常、企業や個人にお金を融資することで利益を得ています。国債の運用で利益を得ることも可能ですが、その利益幅は微々たるもので、資金繰りに困った時に、それを持っているとお金が借りやすくなるという「担保」の意味で国債を持つことがほとんど。しかし最近では、金融機関は国債の運用によって利益を得る傾向が強くなっています。

それはなぜか。日本銀行(日銀)が高い値段で買ってくれるからです。日銀は昨年4月から、「異次元緩和」と呼ばれる金融政策を続けていて、日銀が金融機関から国債を大量に買うことでお金を供給し、資金に余裕ができた金融機関が貸し出す際の金利を引き下げることにより企業がお金を借りやすくし、経済活動を活発にする狙いがあります。

しかしそうした期待とは裏腹に、消費増税による景気の腰折れ感が漂っています。そこで金融機関には、さらなる金融緩和に踏み切ると見込まれる日銀に国債を転売すれば高値がつき、もうけられるという計算がはたらいているのです。実際、市場では「札割れ」と呼ばれる国債が足りない現象が起きており、国債は高値で取引されることが容易に予想されます。

そうした理由で金融機関が国債を買おうとして国債の値段が上がり、金利は低下し、ついには「マイナス金利」になりました。他によい運用先が見当たらず、下手に投資をして損をするよりはマイナスの金利がついた国債さえも買って運用し、日銀に高く買い取ってもらうことで利益を得たいという金融機関の“必死さ"がうかがえます。

このような現象が起きたのは、アベノミクスのうち金融緩和を表す「第一の矢」と、成長戦略を表す「第三の矢」がちぐはぐになっていることが原因です。「異次元緩和」によってせっかくお金を市場に供給しているのに、消費増税や政府の描く成長ビジョンの乏しさにより、国民が景気の先行きに期待が持てず、財布のひもを締めているのが実情と言えます。確かに、安倍政権の外国向けの「トップ・セールス」は堅調ですが、宇宙や軍事、交通インフラなど、国内の基幹産業への投資計画の全貌はなかなか見えてきません。

消費増税から半年たった10月の景気判断でも、内閣府が「景気は、このところ弱さが見られる」に下方修正するなど、各々の指標は芳しくありません。また最近の世論調査では増税反対が過半数を占め、政府内には増税延期を求める動きも見られます。

安倍晋三首相は年末に、2015年10月から消費税を10%に引き上げるか否かの判断をするようですが、異例の事態となった今回の「マイナス金利騒動」を細かに分析し、実体経済を理解する一助とするべきでしょう。(翼)

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