安倍首相の下で開催されている「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」は今月15日に、集団的自衛権の行使容認に向けた報告書を提出する見通しだ。公明党への配慮もあって当初の提出目標の「昨年末」から半年遅れていたが、これで「集団的自衛権」の議論に一定の区切りがつくことになる。

残る懸念は、行使容認への反対姿勢を崩さない連立与党・公明党だ。同党の山口代表は、「与党の信頼関係を崩すことになる」と述べて、15日に報告書が提出された後、解釈変更の閣議決定を急ごうとする安倍首相を牽制している。20日から始まる自公の与党協議で議論が軽快に進む見込みは小さい。

集団的自衛権の行使容認に向けての動きは、日本の憲法史の中でも転換点の1つであることは言うまでもない。しかしながら、「すぐに集団的自衛権の行使容認をする必要性は感じない」という公明党の主張は、「戦後体制にしがみつく時代錯誤」も甚だしい。

日本を取り巻く安全保障の環境は特に近年、劇的に変化しており、中国はこの10年で軍事費を4倍近くにまで膨らませ、アメリカはこの先10年で100兆円もの軍事費を削減するとも言われている。もはや、日米安保条約と米軍基地さえあればよかった時代ではない。

また、集団的自衛権の議論の本質は「自国が攻撃された場合以外の自衛権の行使を認めるかどうか」だ。十分にその可能性を議論しないままに、「自国が攻撃されていない場合は全て必要最小限度を超える」と断ずる現行の憲法解釈には、論理的な飛躍があると安保法制懇のメンバーも指摘する。

例えば、北朝鮮が核ミサイルの発射に着手した際、その基地に自衛隊が先制攻撃を行うことは、個別的自衛権の行使として憲法上認められるとされている。そのような「攻めの防衛」が認められる一方、日本近海を航行する米軍艦船への攻撃を防ぐといった「受け身の防衛」は、集団的自衛権の行使だから認められないことになる。これでは、均衡性を欠くように思われる。

このような法的な問題を指摘する安保法制懇の報告に対して、公明党が反対姿勢を貫くのであれば、公党としての説明責任を果たさなければならない。

そしてもう1点指摘したいのは、2008年6月の時点で既に、「集団的自衛権の行使容認」を是とする報告書が、現在とほぼ同じメンバーの安保法制懇から提出されているということだ。当時から政権与党だった公明党から、「まだ議論が尽くされていない」という意見が出ているが、「この6年間、なぜ議論をしてこなかったのか」という疑問を覚える。

今年3月下旬から、党内で「安全保障に関する研究会」を発足させ、集団的自衛権をはじめとする防衛法制の勉強会をスタートさせたと報じられていた。だが、集団的自衛権に「慎重姿勢」を貫く公明党の党是の後ろでは「準備不足」が見え隠れする。これでは、「政権与党としての責任を果たしていない」との誹りを免れないのではないか。

安倍首相は、「(集団的自衛権の議論を通して)自公連立にすきま風は吹かない」と述べているが、国家安全保障に関する問題意識の食い違いは、連立の正当性にも大きく関わる。「政権与党の資格が現在の公明党にあるのか」を日本国民はもっと注視しなければならない。

(HS政経塾 森國英和)

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