「プーチン大統領は違う世界にいるようだ」
メルケル独首相のコメントからは、「ロシアの考え方は理解できない」というニュアンスがにじむ。ウクライナ南部のクリミアを自国領に編入したロシアについて、ケリー米国務長官も「今は21世紀なのに、19世紀のような行動を取っている」と評している。
オバマ米大統領は20日、ロシアに対する追加の制裁措置を発表した。ロシア政府高官ら20人を、資産凍結や渡航禁止などの制裁対象に新たに加えた他、銀行1行も対象にした。ロシアの主要産業への制裁も視野に入れている。これに対し、ロシアは報復として、マケイン米上院議員ら9人に対する渡航禁止などの措置を講じた。
欧米の制裁の背景には「ロシアが国際法違反を犯した」という共通認識がある。しかし、ロシアを「違う世界にいる」と切り捨て、同国が自国の安全保障をどう見ているのかに目を向けないままでは、この問題を理解することはできないだろう。
米ブルッキングス研究所・欧米センターのフィオナ・ヒル所長は、19日付の読売新聞で「北大西洋条約機構(NATO)とEUは、ロシアを取り囲んで圧力をかける存在に映る。今のクリミア問題は、実は『攻め』より『守り』の戦いだ」と論じている。
アメリカはロシアを「冷戦の敗者」と見てきた。その中で、冷戦期に対ソ防衛を目的につくられた軍事同盟であるNATOが、次第に東欧へと拡大したことを、ロシアは脅威と捉えてきた。元米駐ソ大使のジャック・マトロック氏も15日付の米ワシントン・ポスト紙(電子版)への寄稿で「モンロー宣言の継承者であるアメリカ人は、外国主体の軍事同盟が国境まで迫ってくることに対して、ロシアが極めて神経質になることを、理解すべきだった」と論評している。
またアメリカなどは、東欧で親ロ派の政治指導者を倒すために、非政府組織(NGO)などに予算をつけてきた経緯もある。21日付の毎日新聞によれば、今回のウクライナ情勢をめぐっても、ヤヌコビッチ政権に反対するデモ隊に対して、EU12カ国とスイスが出資するNGOが計15万ユーロ(約2000万円)を提供していた模様だ。今回のウクライナ騒乱では、親ロ派の政権が倒される土壇場で、せめてクリミアだけは確保しておこうという意図がロシアにあったのかもしれない。
「国際法違反」ばかりを振りかざして、いつまでも米ロ関係を悪化させたままにするなら、中国の覇権主義をいかに封じ込めるかという、長期的により重要な国際問題にロシアを関与させることが困難になるだろう。
シリア問題でも、オバマ政権は虐殺を止めることが最優先のはずが、「化学兵器の使用」という国際法の問題にばかり固執して軍事介入を見送った。オバマ大統領は「アメリカは世界の警察官ではない」と宣言したが、国際法をいちいち持ち出さなければ身動きを取れないアメリカは、「国際法違反」を告発するだけの「世界の検察官」となったかのようである。
もちろん覇権主義的な動きを強める中国に間違ったシグナルを送らないよう、ロシアに対して何らかの対抗措置は必要だろうが、アメリカはある程度のところで矛を収めて、米ロ関係を修復する道を探るべきだろう。中長期的に日本が仲裁役となれるなら、それに越したことはない。
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