原発編 原発は危ないんでしょう?(そもそも解説)
2年前の福島第一原発事故以来、放射線被害と原発をめぐる“誤解"が広まったままになっている。本当に、今でも福島は危険なのか。
国連科学委員会(UNSCEAR)や世界保健機関(WHO)、国際放射線防護委員会(ICRP)や国際原子力機関(IAEA)など、信頼性の高い国際機関は「年間100mSv(ミリシーベルト)以下の放射線による、人体への影響は認められない」としています。
日本の放射線医学総合研究所も、「およそ100mSvまでの線量では、放射線によってガンの死亡が増えるという明確な証拠はありません」と話します。
つまり、科学の世界では、100mSvより低い被曝では、たとえリスクがあったとしても、そのリスクが確認できないほど影響が小さいということです。また、仮に100mSv被曝したとしても、すぐに病気になるわけでなく、ガンになるリスクが0・5%増える程度です。
旧ソ連のチェルノブイリの原発事故の後、何度も調査に入った研究者で、年間9000mSvを被曝した人はその後も健康だったといいます。
「1mSv」という数値が注目されたのは、細野豪志・原発事故担当相(当時)が「除染は国の責任。目標は(年間)1mSv以下」と発言したことが発端です。
マスコミが大騒ぎし、日本中に「1mSvでも危ない」というイメージが広がりました。しかし、病院のCTスキャン一回分の被曝線量が6・9mSvであることからも分かるように、1mSvはまったく恐がるような数値ではありません。
政府もマスコミも、国際放射線防護委員会(ICRP)の「年間1mSvを超えないように」という勧告にとらわれていますが、これはあくまで平常時の目標値です。ICRPも、事故などの緊急時には年間100mSvまでの被曝を許容しています。
元ICRP委員の専門家は「1mSvや10mSvの被曝は、問題になる量ではありません。個人的には、年間400mSvでも大丈夫だと考えています。過度のストレスやタバコの方がよっぽど怖い」と指摘します。
放射線防護学の第一人者である高田純・札幌医科大学教授は事故直後の2011年4月、福島第一原発の入り口まで行って調査。3日間で原発から20km圏内で受けた外部被曝は0・1mSvでした。
この数値だと1年間滞在しても12mSvにしかなりませんし、放射線の影響はどんどん弱まっています。高田教授は「今回の事故の放射線は、福島の人々の健康を害するレベルではなく、今後とも健康被害は起きない」と断言します。
そもそも人間の細胞は、新陳代謝や排泄によって毎日入れ変わっています。白血球は3~5日、皮膚は垢などの老廃物となって2~3週間、肝臓や胃、筋肉などを含めるとだいたい1年以内で全身が入れ替わると言われています。ですから、体が受ける放射線量は、単純な足し算よりもずっと低くなります。
日本人の2人に1人がガンにかかり、3人に1人がガンで死んでいますが、10年後や20年後に福島の人々がガンになる確率は、この範囲に収まるでしょう。
原爆投下後、広島・長崎で行われた調査では、その後40年間に生まれた約8万人の子供、いわゆる「被曝二世」に、一定の頻度で奇形は出ました。しかし、自然に発生する確率よりも低かったため、「放射線の遺伝的な影響はない」と結論づけられています。
さらに、その被曝二世の両親の被曝線量が平均で400mSvだったことを考えると、多い人でも数mSv程度の被曝だった福島の女性はまったく心配ありません。専門家は「100mSv以下であれば、胎児に奇形は生じず、親の精子や卵子にも影響がない。従って、遺伝的な影響もありません」と指摘しています。
驚くことに、広島市の女性の平均寿命は86・33歳で、政令指定都市の中で1位でした(2005年調査)。日本は世界一の長寿国なので、広島市の女性は世界一長寿と言えるでしょう。また、死産率の低さも1位でした。
ちなみに、医学的に女性が一生子供を産めなくなる被曝量は年間2500mSv、一時的に産めなくなる量は年間650mSvと言われます。
チェルノブイリの事故では多くの子供が甲状腺ガンにかかりましたが、実際に亡くなったのは15人で、原因は汚染された牧草を食べた牛の牛乳を飲んだためです。その子供たちの甲状腺の被曝線量は最大で5万mSvという大変な量でした。
一方、事故当時の福島では、牛乳の出荷が停止されたので、同じ問題は起きない上、専門家の調査で、福島の人々の被曝線量はチェルノブイリの1000分の1以下と判明しています。
また、福島では放射性セシウムの被曝による白血病も心配されていますが、実はチェルノブイリでも、事故の影響で白血病にかかった人は見つかっていません。
福島に限らず、厳密に調べれば誰の体からもセシウムは検出されます。尿や母乳からセシウムが見つかっても、わずかな量であれば心配ありません。マスコミは「子供の甲状腺にのう胞やしこりが見つかった!」「セシウムが検出された!」などと不安を煽りますが、まったく問題ないレベルです。
スーパーなどで売っている食べ物は、厳しい検査を通過しているので心配ありません。
逆に、2011年4月に、当時の菅政権が新しく設けた厳しい規制値のほうが問題です。それ以前は、食品中の放射性物質を「年間5mSv以下」としていましたが、これを「年間1mSv以下」とさらに厳しくしたのです。これを達成させるために、食品に含まれる放射性セシウムの量については、牛乳は4倍、肉、卵、魚、野菜、穀類などは5倍厳しくなりました。
そもそも人の体には1kgあたり67ベクレル(Bq、注)のカリウムが含まれていて体内から放射線を出しています。体重60kgの人なら4020Bqです。また、納豆には1kgあたり200Bq、乾燥昆布に至っては1600Bq含まれています。つまり、政府は食品について、自然界に存在している放射能よりも低い数値を設定しているわけです。この理不尽な規制値が、福島の農業や水産業の人たちを苦しめています。
土地の除染をめぐって、膨大な資金と土の受け入れ先が見つからないという問題があります。
しかし、放射線に詳しいある大学教授は、「政府が『その土地での外部被曝が年間100mSv以下であれば、除染は必要ない』と宣言すれば、この問題は解決できます」と指摘します。農地や牧草地などの特別な土地を除けば、ほとんどの地域で除染は必要ないということです。
現在、政府は20mSv未満の地域には人が帰れるという立場ですが、事故当時の民主党政権やマスコミが「1mSvでも危険」というイメージを広げたため、恐怖心を持った多くの人々が故郷に戻ってきていません。家や公共施設はどんどん傷み、いまだに津波で流されたがれきが片付けられていません。
政府は、必要のない除染や、避難生活のために税金を使うのではなく、福島の人々が故郷に戻ってそれぞれの町で復興に取り組むのを後押しする方向で、お金を使うべきです。
「核のゴミ」とは、原子力発電所で使った使用済み核燃料をリサイクルした後、最後に残る廃液のことです。これを「高レベル放射性廃棄物」と言います。
まず、使用済み核燃料についてですが、現在、約1万7000トンが、各原発や青森県六ケ所村に厳重に保管され、リサイクルされる日を待っています。
六ケ所村の再処理工場は10月に運転が始まる予定で、高速増殖炉「もんじゅ」などと合わせた核燃料のリサイクルシステム全体が動き出せば、少量のウランで半永久的な発電が可能となり、最後に捨てる廃棄物も7分の1程度に減ると言われます。
廃棄物の処分方法は、廃液をガラスと混ぜて固め、金属容器で二重に覆い、地下300メートル以下に埋める「地層処分」が計画されています。最終処分地に名乗りを上げる自治体はありませんが、エネルギー自給率4%の日本は国策として進める必要があります。
再処理問題に詳しい京都大学の山名元教授はこう指摘します。 「感情的に『地層処分は危険』と訴える人がいますが、地上に長期間保管する場合の地震やテロなどのリスクを避けるために、誰も近づけず地震の揺れも非常に小さい『深い岩盤』に埋設するのです。人工的な仕組みと地層の力によって、地下水への影響も、基準値を大きく下回る年間線量0・000005mSv以下を実現できます。現在、最も確実で安全な処分方法です」
国内で地層処分することがベストですが、他の国に引き取ってもらう方法もあります。
経済産業省は2010年ごろから、アメリカと共に、世界初の国際的な使用済み核燃料の貯蔵・処分施設を、モンゴルにつくる計画を進めています。モンゴルは日本の4倍の国土面積を持つ反面、人口は大阪市とほぼ同じ約250万人。砂漠地帯も広く、廃棄物を引き受ける見返りに日米から原子力技術の支援を受けられます。
なお、フランスやロシアは海外に向けて、自国製の原子炉建造と廃棄物の引き受けをセットで売り込んでいます。
また、日本政府が80年代に着手した「放射能の無力化」の研究も重要です。「オメガ計画」と呼ばれ、核物質に含まれる成分を分離・再利用したり、エネルギー陽子をぶつけて消滅させる研究です。
現在この計画は前進していませんが、日本の理論物理学者がこれに似た、「ニュートリノビーム」による無力化の提案をしています。粒子加速器で高いエネルギーのニュートリノを発生させ、それをウランやプルトニウムに照射。未熟爆発や熱で気化させて放射能を消滅させます。
この方法では、一時的に1000TeV(1000兆電子ボルト)のニュートリノを発生させなければなりません。原発50基分の発電量に匹敵する膨大なエネルギーですが、電力貯蔵装置などを設ければ理論上は可能。今後のエネルギー革命の進展によって、実現も夢ではないでしょう。
震災後、全国の原発をめぐって、「原発施設の下に活断層があると危ない」という議論が出ています。原子力規制委員会は、各地の原発を調査して、「活断層がある」と認定した原発を廃炉にしたり、耐震補強が整うまでは再稼働を認めないとして、次々と"原発狩り"を行っています。
最近では同委員会の専門家チームが、青森県・東通原発の断層について、「13万年から12万年前以降に活動した活断層の可能性が高い」「場合によっては40万年前も対象」として再稼働を阻止しようとしています。しかし、地震予知に成功したことのない地震学に基づく活断層の認定には意味がありません。
1995年の阪神・淡路大震災をはじめ、2000年の鳥取県西部地震、04年の新潟県中越地震、07年の能登半島地震、同年の新潟県中越沖地震、08年の岩手・宮城内陸地震のいずれも、活断層がないとしていた場所で起きました。もちろん、地震学者は予知することはできませんでした。
火力発電へのシフトで燃料費が増え、全国的に電気料金が上がっています。政府は活断層の有無に関係なく、今すぐ原発を動かすべきです。