2013年5月号記事

ワシントン発

ワシントン発
バランス・オブ・パワーで読み解く
伊藤貫のワールド・ウォッチ

(いとう・かん)

国際政治アナリスト。1953年生まれ。東京大学経済学部卒。米コーネル大学でアメリカ政治史・国際関係論を学び、ビジネス・コンサルティング会社で国際政治・金融アナリストとして勤務。著書は『中国の核戦力に日本は屈服する』(小学館)、『自滅するアメリカ帝国』(文春新書)など。

国際政治はバランス・オブ・パワー(勢力均衡)から逃れることはできない。アメリカの退潮、中国の台頭、北朝鮮の核武装──。日本の置かれた立場は確実に不利に傾いている。日本が主体的にパワー・バランスをつくり出すために、国際情勢をどう読み解けばいいのか。

最終回

戦略家ケナンの教訓

連載最終回の今回は、第二次大戦後のアメリカ外交の基盤となった二つの重要な戦略案、『ソ連封じ込め戦略』と『マーシャル・プラン』を発案したジョージ・ケナン(1904~2005年)の外交思想を紹介したい。ケナンの戦略的な視点は、21世紀の日本人にとって重要な意味を持っているからである。

多極構造こそ国際政治の常

ほとんどの日本人は現在でも、1947~89年の米ソ二極構造の時代に形成された外交思考パターンを使っている。この二極(冷戦)時代、日本政府は、「日本は、共産主義陣営に対抗する自由主義陣営に所属して、アメリカに守ってもらえばよい」という対米依存主義を採っていた。いわゆる「吉田外交」である。