モスクワで開催された主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は16日、共同声明を採択して幕を閉じた。声明で各国は競争的な通貨切り下げを回避することで合意。金融政策は国内での物価の安定や、景気回復のためのものであるべきで、為替相場はあくまで市場メカニズムが決定するという原則を示した。

大胆な金融緩和を含む安倍政権の経済政策が、意図的な円安誘導に当たるという批判が出ていたが、声明で日本が名指しで批判されることはなかった。新興国側からは日本の政策に懸念の声が出たが、「アベノミクスはあくまでデフレを脱却し国内経済を活性化させるためのもの」という最低限の理解は得られた格好だ。

会議で日本の経済政策が異例の注目を集めた一方で、「為替は市場が決める」という原則を示したことは、中国や韓国などへの牽制になる。中国は固定相場制によって人民元の価値を実際よりも低く抑えることで、輸出を有利にし、経済成長の原動力としてきた。これによって貿易赤字のかさんでいるアメリカから、変動相場制への移行を求める声が出て久しい。

円安で特に悲鳴を上げているのが、これまで輸出で儲けてきた韓国だ。韓国ウォンは2007年8月から実効レートで19%も下落しており、韓国企業の追い風になってきた。ところが円安ウォン高で流れが変わった。昨年、過去最大の収益を記録したサムスン電子は、為替の影響で3兆ウォン(約2500億円)の営業利益が吹き飛ぶかもしれないと恐れており、円相場が1ドル100円に近付けば韓国の輸出は6%減るという試算もある。「市場が為替を決める」という原則は、低金利政策などでウォン安を後押ししてきた韓国政府に対する圧力になる。

発展途上国が経済の基礎をつくる上で、固定相場制のもとの輸出主導政策は有効な手段だが、ある程度まで経済力がつけば、やはりフェアな競争をしなければならない。日本の政治家は円安誘導と疑われるような発言を控え、米欧などと協調しながら中韓に公正な為替政策を求めてゆくべきだ。

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