アサド大統領に対する反政府運動が1年以上にわたって続いているシリアをめぐり、内戦の発生を危ぶむ声が国際社会で高まっている。中西部のホウラでは先週、政府派の武装集団によって108人が殺害された。女性34人と子供49人を含む犠牲者の大多数は至近距離から発砲されたものとみられ、政府側の弾圧の苛烈さをうかがわせる。29日には東部のデリゾールで、後ろ手に縛られたまま射殺された13人の遺体も発見されている。
昨年からの反政府デモへの弾圧による死者は1万2千人以上にのぼるが、国際社会は虐殺を止める効果的な手を打てていない。最近では前国連事務総長のコフィ・アナン氏が仲介に当たり、停戦協定と300人規模の停戦監視団の派遣にこぎつけたが、攻撃は止まず、調停案が破たんする可能性が高まっている。スンニ派が多数のシリアでは少数派のアラウィ派が支配階級にあったが、停戦の破たんは宗派争いを含んだ内戦に発展する恐れもある。
国連安保理では何度も制裁案が検討されたが、ロシアなどの反対で成功していない。そこで、スーザン・ライス米国連大使が、安保理の枠外での行動の検討を示唆するなど、米欧がなんらかの介入を行う可能性が出てきている。これまでも反対派への武器の供給などが検討されてはきたが、反政府派の中にテロリストが混ざっているのではないかという懸念や、周辺国に紛争が拡大する危険性があることから見送られてきた。
しかし、国際社会が手をこまねいている間に、行動しないことのリスクが徐々に大きくなってきている。混乱がこのまま長引けば、アル・カイダなどのテロ組織やシリアの同盟であるイランが介入する恐れがあるからだ。オバマ米大統領はロシアのプーチン大統領との来月の会談に事態打開の望みをつなぐが、アメリカ軍は万が一に備えたシナリオを準備している。これまでに1万2千人の命が失われたのは誠に遺憾だが、アサド大統領が追放されねばならないのは道義的に明らかであり、今からでも国際社会の努力が待たれる。
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