クリントン米国務長官とパネッタ国防長官は、23日に上院外交委員会で行われた公聴会で、国連海洋法条約(UNCLOS)への早期批准を促した。国連海洋法条約は各国の領海や、経済資源の採掘の権利を持つ排他的経済水域(EEZ)の範囲といった海の取り決めをまとめたもので、160カ国以上が参加している。歴代米政権も参加を目指してきたが、条約に縛られることで国益を損ないかねないという理由で、3分の2以上の賛成が必要な上院での正式な批准の手続きは成功してこなかった。

外交委員会はクリントン長官らへのヒアリングを皮切りに、今後は石油など業界関係者らへの公聴会も行い、大統領選明けの年内にも本会議で採決したい意向だ。アメリカで海洋法条約への批准の気運が高まっている背景には、拡大する中国の海軍力への対処という問題がある。証言に立ったクリントン長官も、「条約加盟によって、我々は航海の権利を守り、南シナ海や北極海での他国の行動に対して、より強く説得力のある法的な立場から反論することができる」と述べている。

中国は条約の解釈で独自の立場を展開し、南シナ海や東シナ海での領土問題や権益の拡張に用いている。中国沿岸で調査活動を行っているアメリカは、排他的経済水域内では軍民問わず船の航行は自由だという立場だが、中国側は軍事用の船舶が航行する際には許可が必要だと主張している。また国連海洋法条約では、大陸棚が続く場合に経済水域は延長されるとしているが、これについても解釈は定まっておらず、中国は尖閣諸島周辺などの油田開発の根拠に使っている。

戦後の国際社会では国連やIMFの設立など、ルールを作って国際問題を解決する流れがアメリカ主導で進んだ。しかし、ルールはそれを加盟国が守るよう担保する軍事力の裏付けがあってこそ効果的に機能するという事実を、海洋法条約の解釈をめぐるいさかいは示している。アメリカがもし衰退するならば、これまでのルールを中国が思いのままに運用しようとするのは当然の成り行きだ。中国との領土問題を抱え、貿易に不可欠なシーレーンの防衛をアメリカに頼っている日本としても、大いに関心を払うべき問題である。

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