映画ファンの皆様、お元気で映画を楽しまれていますか。

時には新しめの映画もご紹介したいと思い、今から10年前の公開作を調べると、この『ハドソン川の奇跡』が2016年9月公開でした。本作は大川隆法・幸福の科学総裁が2009年の英語説法「I Can」(私はできる)で話の枕に使っている実話をクリント・イーストウッド監督が映画化した意欲作です。

(あらすじ)

2009年1月15日、ニューヨークのラガーディア空港から離陸した旅客機USエアウェイズ1549便は直後の上昇中に鳥の群れに衝突、二つのエンジンとも機能を失ってしまう。機長のサリー(トム・ハンクス)はラガーディアに引き返すことも管制塔の示唆する近隣空港への着陸も不可能と判断し、副操縦士のジェフ(アーロン・エッカート)と共に眼下のハドソン川に危険な緊急着水を決行。奇跡的に機体の損傷もなく、乗員乗客155名は全員無事だった。これが「ハドソン川の奇跡」と称えられサリーは英雄視されるが、国家運輸安全委員会は通信データとシミュレーションに基づき、ラガーディアや近隣空港への着陸は状況的に可能であり、サリーとジェフが乗客を不必要な危険にさらしたと指摘。二人は調査委員会の場で反論を試みる。

イーストウッドは2003年頃からアカデミー賞の常連ですが、本作はアカデミーにノミネートされませんでした。ただ、日本のキネマ旬報では同年の外国映画ベスト・テンの第1位を得ているので日本人好みのようです。彼の監督作の中では96分と短めで、贅肉のない実話ベース作品としてお楽しみいただけると思います。

見どころはまず、事故発生から救出までを、まるで自分が機長や乗客になったかのようにリアルに見せてくれることです。イーストウッドは本物のエアバスを購入して撮影に使い、救助隊などにも実際の事故に携わった人を多数出演させているとのこと。いたずらにパニック感を煽ることなく、コックピットにおける機長の沈着な対応、着水した機から乗客を脱出させるクルーたちの手際などがむしろ淡々と描かれ、彼らプロへの信頼感で頼もしくなります。このへんが日本人の感性に受けたのかもしれません。

また後半の重要場面が、調査委員会でのやり取りです。ここは事実と異なる脚色がなされているとのことですが、サリーとジェフは数十人の委員たちの前で、コンピュータと人間によるシミュレーション結果によるとラガーディアや近隣空港への着陸は可能だったと糾弾されます。しかしシミュレーション映像を見せられたサリーは、そこに「人間的要素(ヒューマン・ファクター)」が欠けていると指摘。シミュレーションを演じるパイロットたちは何が起きるかをあらかじめ知っているばかりか、17回も練習を重ねたことがサリーの質問によって明かされます。「事故が起きた瞬間から人間が状況を推測して判断を下すまでのリアルな時間が考慮されていない」というサリーの反論を委員会側は受け入れ、その分の時間を35秒プラスして再度シミュレーションを行うと──。

ここで筆者は、現在のAIが当時のシミュレーションや事故対応に関わっていたらどうなっていたかと想像しました。機長サリーは40年の飛行経験を持つ大ベテランです。彼が言うヒューマン・ファクターは、AIにはない人間的逡巡に加えて、人工知能が超えることのできない長年の経験知と勘を含むのではないでしょうか。

そして筆者が本作で特に気に入っているのが、ラスト近くのセリフです。調査委員から「今回の機長の対応以外に選択肢はあったと思うか」と問われた副操縦士ジェフは、それにジョークで答え、会場の空気は一変し、温かい笑いに包まれます。これはジェフが実際に他の場面で言ったジョークだそうで、笑えると同時にサリーへの信頼と擁護が感じられます。アメリカ的ユーモアの妙味をご堪能ください。

大川総裁が英語説法「I Can」でこの実話を取り上げたのは日本時間の1月16日。その日の朝CNNでこのニュースを見たということで、時差からすると事故直後のことであり、アメリカのbreaking news(速報)を即座に英語説法に取り入れるセンスはさすがです。説法で総裁はこう話しています(和訳)。

「私はテレビでそれを見ながら、この『アイ・キャン』という言葉を思い浮かべました。(中略)『年初から縁起でもない。嫌な年だな』と思った人もいるかもしれませんが(中略)『ほぼ全員が助かったらしいというのだから、奇跡だ』と思う人もいるでしょう。物事は考え方次第で変わり得るものなので、気をつけなければいけません。まさにここが、人生の問題を解決する秘密であり、鍵なのです」

物事は考え方次第で変わり得るとは、考え方という「ヒューマン・ファクター」こそ大切であるということでしょう。緊急時の対応も最後はそれがモノを言うはず。幕切れのような人間的なジョークを「考える」ことも、AIには当分無理かと思われます。

(田中 司)

『ハドソン川の奇跡』

2016年 | 96分 | アメリカ

【スタッフ】
監督:クリント・イーストウッド
【キャスト】
出演:トム・ハンクス アーロン・エッカート ローラ・リニーほか

 

【関連書籍】

I Can! 私はできる!

『I Can! 私はできる!』

大川隆法著 幸福の科学出版

幸福の科学出版にて購入

Amazonにて購入