国際政治学者

佐久間 拓真

(ペンネーム)
国際政治の中でも特に米中関係、インド太平洋の安全保障、中国情勢を専門にし、この分野で講演や執筆活動、現地調査などを行う。

南太平洋に浮かぶ島国、トンガ王国。透き通るような青い海と温暖な気候に恵まれたこの島は、長らく観光客にとっての楽園であり続けてきた。しかし今、その牧歌的な風景の裏側で、国家の主権をも揺るがしかねない深刻な事態が進行している。

世界が台湾海峡や南シナ海の緊張に目を奪われている間に、中国による静かなる「経済的侵略」が着実に、そして不可逆的なレベルで浸透しているのである。これこそが、現代のチャイナリスクにおける最大の死角と言えるだろう。

発端は2006年の暴動復興援助

トンガにおける中国の影響力拡大は、突如として始まったものではない。その起点は、2006年に首都ヌクアロファで発生した暴動にある。市街地の多くが焼失するという未曾有の事態に対し、復興資金の手当てに窮したトンガ政府に救いの手を差し伸べたのが中国であった。中国輸出入銀行は、当時のトンガの国家予算を遥かに上回る巨額の融資を実行し、瓦礫の山と化した首都の再建を請け負ったのである。

一見、人道的な支援に見えるこの動きこそが、後に「債務の罠」としてトンガの首を絞める導火線となった。現在、トンガの対外債務の相当部分は中国への借款が占めており、その額は同国の国内総生産(GDP)の無視できない割合に達している。小国にとって、この規模の負債は国家財政を中国の意向に完全に従属させかねない致命的な重石となっているのだ。

貸付資金が自国に還流する仕組みを徹底