国際政治学者
佐久間 拓真
(ペンネーム)
国際政治の中でも特に米中関係、インド太平洋の安全保障、中国情勢を専門にし、この分野で講演や執筆活動、現地調査などを行う。
近年、南太平洋の島嶼国群に対する中国の経済的関与は目覚ましいものがあり、その影響力拡大は「債務の罠」を仕掛けた「経済侵略」として、西側諸国から警戒されている。
この地政学的攻防の最前線の一つに位置するのが、米国と自由連合盟約(FAS)を結び、長らく西側陣営の安全保障下にあった、ミクロネシア連邦(FSM)である。しかし、この伝統的な同盟関係の隙間を縫うように、中国の経済外交が深く浸透し、ミクロネシア連邦の政治的安定と主権に新たな緊張をもたらしている。
中国の援助と「賄賂外交」の影
ミクロネシア連邦と中国は1989年に国交を樹立して以来、経済・技術協力協定を締結し、インフラ建設を中心に援助が進められてきた。具体的には、首都パリキールのナショナル・コンベンション・センター、ポンペイ州やコスラエ州の州庁舎といった重要な公共施設の建設が中国の資金で実現している。また、小売業や貿易業においても中国系企業が大きなシェアを占めており、国民生活レベルでも中国の存在感は無視できないものである。
しかし、この「支援」の裏側では、中国共産党による影響力工作が疑われている。特に、デイビッド・パニュエロ前大統領が2023年に行った「命にかかわる直接的な脅威」に直面しているとの爆弾発言は、この問題の深刻さを浮き彫りにした。パニュエロ氏は、中国の諜報活動、政府活動への干渉、そしてミクロネシア連邦政府要人に対する「お金の入った封筒」による賄賂供与を具体的に非難し、中国との関係断絶と台湾支持を訴えた。
パニュエロ氏の警告は、中国が単なる経済援助に留まらず、ミクロネシア連邦のエリート層を金銭で抱き込み、国家安全保障と主権を内部から損なうことを意図しているという主張に他ならない。中国の外交官が「便宜を図る手段」として高官に現金を渡すという行為は、ミクロネシア連邦を従来の同盟国である米国、オーストラリアなどから切り離し、太平洋における戦略的拒否の責任を、中国側に有利な形で変更しようとする明確な試みと見なされている。





















