「三十回は観た。でもあと二十回は観てから死にたい」
まだ家庭用ビデオすらなかった時代に、「七人の侍」についてそう語ったのは作家の故・井上ひさしです。あなたは本作を何回ご覧になりましたか。一昨日から全国の「午前十時の映画祭」実施劇場で上映中ですので、何度かご覧になった方もですが、特に、まだ一度もご覧になっていない方には、この機会にスクリーンで鑑賞されることを心からお勧めします。
日本映画が世界に誇る最高傑作である本作の素晴らしさは語り尽くせませんが、今回は、幸福の科学が重視している「武士道」の観点と、映像面の見どころの仏法真理的印象に絞って述べてみます。
(あらすじ)
戦国時代、野武士の襲撃に対抗するため侍を雇うことになった村が、村人四人を侍探しに送り出す。彼らは歴戦の古豪・勘兵衛(志村喬)に出会い、勘兵衛を中心に個性豊かな面々が集結、トリックスター的な暴れ者・菊千代(三船敏郎)を加えた七人の浪人が村に乗り込む。七人は村人に竹槍の訓練をほどこし、若侍の勝四郎(木村功)と村娘の恋もある中、野武士との死闘が始まる──。
勘兵衛は、他の侍やかつての部下を口説く際、「知行や恩賞にはまったく縁のない仕事でな」「金にも出世にもならん難しい戦(いくさ)があるんだが、ついてくるか」などと言います。村からの報酬は、腹いっぱい米の飯を食わせるというだけ。しかも、命の危険を伴うわけです。
現代の私たちは、最低限の賃金で、下手をすれば自分の社会的生命を失いかねない困難な人助けの仕事をオファーされたら、果たして受けるでしょうか。そんなことができる人間は、本作のセリフを借りれば「物好き」でしょう。しかし、物好きの「好き」は「愛」に通じます。侍たちの動機には、弱い者を見捨てておけない愛の心、正義を愛する心があったはずです。大川隆法・幸福の科学総裁は著書『天使は見捨てない』で、愛と武士道に関して次のように述べています。
「『その人が天使かどうか』というのは、その人が持っているハートの部分を見れば分かります。例えば、『他の人への愛』などです。(中略)『武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり』(『葉隠』)と言いますが、それは、『死ぬために死ぬ』というわけではありません。武士道とは、『人を生かすために、死ぬことをも恐れない』ということなのです」
苦しむ村人への義侠心から、死をも恐れず悪と戦う「七人の物好き」の物語は、普遍的な武士道精神の一端を描いていたからこそ、世界の人の心を打ったのではないでしょうか。
映像面では、本作の脚本陣の一人、橋本忍に、黒澤作品を論じた『複眼の映像』という著書があります。「複眼」の一つの意味は、黒澤映画の映像の最大の特質である「マルチカメラ方式」です。これは、複数のカメラを同時に回して一つのシーンを一気に撮影し、それらのフィルムを編集して、視点がテンポよく切り替わるダイナミックで臨場感ある映像を生み出す手法です。
この方式は本作のクライマックス、雨の中の最終決戦のシーンで比類なき効果を上げています。騎馬で村の中を疾走する野武士たち、竹槍で押し寄せる村人の群れ、矢を放つ勘兵衛と、次の瞬間、矢に倒れる野武士、羅刹(らせつ)の如く斬りまくる菊千代などが目まぐるしく交錯。一人の人間がこうした様々な角度から目の前の出来事を見ることは現実には不可能であり、映画でのみ可能な映像体験です。視点の複数性で思い出されるのが、「如心」という高い悟りの境地です。大川総裁の著書『観自在力』には、こうあります。
「如心の状態というのは、"複数の目"があるような状態だと言えましょうか。自分の目がいろいろなところに点在しているような境地が如心なのです。(中略)自分の目が『ここにあり』、そして、目自体がテレポーテーションするがごとく『かしこにあり』、また、『違うところにあり』といった感覚で物事を見、感じ取ることができるようになります」
あたかも神の視点のような複眼的映像を駆使し、作品が世界的影響を与えた黒澤明は、霊格的にかなり高い人物だったのではないかと映画ファンとしては想像したくなります。
映画の最後、野武士は滅ぼされ、村人は陽気に歌いながら農事に勤(いそ)しんでいます。しかし、高台には土饅頭が四基。七人中四人が斃(たお)れ、生き残った勘兵衛は、かつての部下にこう言います。
「今度もまた負け戦だったな。勝ったのは百姓だ。わしたちではない」
仲間の半数以上を失ったのは、確かにこの世的な意味では負け戦でしょう。しかし、あの世を含めた視点から見れば、自己の利益や名声のためでなく人助けに命をかけた侍たちの戦いは、決して単なる負け戦ではありません。そして、現代社会にも彼らのように、己れの得失を超えて正しさと愛のための戦いに殉ずる人びとは、たとえば宗教の世界にも数多くいます。その人の頭上には、目に見えぬ栄光が輝いていることでしょう。たとえ、世間的には名も無き"侍"の一人であったとしても。
(田中 司)
『七人の侍』
- 【公開日】
- 2025年10月17日~11月6日
- 【スタッフ】
- 監督:黒澤明 脚本:黒澤明 橋本忍 小国英雄
- 【キャスト】
- 出演:志村喬 三船敏郎 木村功 津島恵子 ほか
- 【その他】
- 1954年製作 | 207分
公式サイト https://asa10.eiga.com/2025/cinema/1409/
【関連書籍】

























