「ロシアの学校では、宗教教育が行われている」──。
そう聞くと、ロシア正教の宗派教育が行われている光景をイメージする方もいるかもしれない。
(本欄は、全2回のうちの後編。前編は「人物伝 プーチン アナザーストーリー(前編) 信仰者プーチンの教育観を築いた『柔道』との出会い」)
だが、実際にロシアで行われている宗教教育は、いわゆる「宗派教育」ではない。「ロシア正教文化の基礎」「イスラム文化の基礎」「世界宗教文化の基礎」といった形で、宗派の違いや少数派の宗教にも配慮して選択制で宗教的な知識教育を行っている。
つまり、ロシア正教を他の宗教を信じる人々に押し付けるためのものではない。ロシアには190を超える民族が存在し、南部を中心に1000万人以上のイスラム教徒がいる以上、そんなことをすれば、「連邦」を維持できなくなるからだ。
ロシアに住む民族は「神の前に平等」
そのため、プーチン露大統領(以下、敬称略)は、あらゆる民族は「神の前で平等」だという考えを公表している。
「スラヴ民族の哲学および宗教に関する最も古い文献のひとつである『法と恩寵についての説教』は、『選ばれた民』という理論を否定し、神の前での平等を唱えている」(2012年1月23日付ロシア大統領府ウェブサイト)
また、ロシア最古の年代記において、古ロシア国家に20を超える民族が記されていることを紹介。
とあるロシア思想家の言葉を引用して、「他者の血を根絶やしにしたり、抑圧したり、奴隷化したりせず、非正教徒の部族の生命を絞め殺すことなく、あらゆる民に呼吸する自由と偉大な祖国を与えなさい。あらゆる民を尊重し、互いに和解させ、各自が望むように祈り、働くことを許し、国家の政治的・文化的発展のために、それぞれの民族から最良のものを選び取りなさい」と訴える。
ロシアが常に多民族国家であったことを強調し、ロシア国民とロシア文化の役割は「この独特な文明を結びつける」ことにあると訴えている。
むしろプーチンは、ロシアを単一民族国家にしようとする国粋的な発想は、「我々の千年の歴史に反するもの」であり、「ロシア民族とロシア国家の破壊への近道」であると批判する。プーチンは保守的ではあるが、ヒトラーのような偏狭で排他的な民族主義者ではない。