澁谷 司

アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

中国人有名ブロガーの施化(せ・か)によれば、今年2月28日のトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談は、ヴァンス米副大統領を含め3人の立場が明確に示された。大まかに言えば次のようにまとめられるのではないかという(*1)。

(*1)2025年2月28日付『万維ブログ』「施化:ゼレンスキーは正義に迷わされている」

知性に欠け、一国の主にふさわしくないゼレンスキー氏

  • ゼレンスキー氏は「ブダペスト覚書」に由来する恨みを抱いており、核兵器を放棄していなければウクライナの現在はなかったと考えている。

  • 「ブダペスト覚書」とは1994年12月にハンガリーの首都ブダペストで開催された欧州安全保障協力機構会議で、米・英・露の核保有3カ国が署名した覚書のこと。ウクライナ・ベラルーシ・カザフスタンが核不拡散条約に加盟したことに関連して、米・英・露がこの3カ国の安全を保障するという内容である(フランスと中国は、別々に個別の保障をしている)。

  • ゼレンスキー氏はその恨みを飲み込むことができず、すべての不満をトランプ氏にぶつけている。しかし、同氏は勇敢だが、成熟しているわけでもなく、少なくとも一国の大統領にふさわしいほどの大人物でもない。また、長期的な思考を持ち合わせていないし、知性にも欠けている。

  • 「ブダペスト覚書」は、その条文を破らないという約束を文書で交わしただけで、法的文書ではなく、罰則条項もない。過去の覚書だけを根拠に"正義"を語り、自分が"正義"の側に立つことや被害者であることを根拠に他者の利益や感情を顧みないのは、"正義"に惑わされていると言えよう。

  • 一方、トランプ氏は率直な人間だった。ゼレンスキー氏に対し、笑顔とちょっとした「おだて」で、無事に契約書にサインして利益を手にする。ただ、もし彼が本当に計算高く、ウクライナとのレアアース採掘契約が国益にかなうとわかっているのなら、状況に応じて掌を返すだろう。あそこまでゼレンスキーを追い込む必要はなかったのではないか(その後、ゼレンスキー氏側が折れて、米国とウクライナの関係は改善されつつある)。

  • ヴァンス副大統領は少しイライラしていた。彼は、ゼレンスキー氏が米国と大統領に敬意も謝意も示さず、怒鳴ったり叫んだりするのを見るのに耐えられなかったのだろう。

  • こうした中、各国の態度が露呈しつつある。

  • ロシアは多少なりとも戦争勝利の可能性があるのならば、停戦したくないのではないだろうか。ウクライナも、トランプ政権の圧力等に屈する事なく、最後の最後まで戦争を継続しようとするに違いない。

  • 他方、欧州は美辞麗句を並べるだけで、現実的な解決策は一つも示そうとしない。

  • さらに中国は、米国とウクライナ間の決裂を見て、この状況を利用しようとするだろう。

  • そして米国の目的はただ一つ、戦争での殺戮を止め、死者を減らすことであり、それ以外のことは基本的に何もないのかもしれない(施化は言及していないが、トランプ政権としては、アジア・太平洋での対中「封じ込め」に集中したいのではないか)。