2024年12月号記事

いまだ完成せず

対中包囲網を妨げるもの

10年前と比べたら、「中国脅威論」は多くの国に広がり、定着した感がある。
だがその備えとなれば、話は別だ。

アメリカが2011年より始動した「対中包囲網」の構築が全く進んでいない──。

日本にとって不都合な事実が、米外交問題評議会(CFR)上級研究員のロバート・D・ブラックウィル氏らの共著『失われた10年』(未邦訳)で裏付けられ、専門家の間でショックが走っている。

同書は、ほとんど研究されてこなかった対中包囲網の実態を検証し、その形骸化を浮き彫りにした(オバマ政権からバイデン政権までの10年間を研究対象)。

覇権国家のアメリカがあれほど中国の脅威を発信してきたのに、「そんなはずがない」と思いたくなるだろう。

だが、残念ながら事実である。世界各地に駐留する米軍が中国軍の台頭に合わせてアジア防衛に専心(アジア・ピボット)してこなかった結果、戦力面で中国軍が優勢になっている(次ページ図)。まるで船が沈むかのように、米軍の優位性が低下する危機的状況だ。

後退するアメリカの覇権

日本では、バブル崩壊以降の長引く不況を「失われた10年」とも言う。一方のアメリカでは、中国の台頭によって軍事的覇権が揺さぶられた期間を「失われた10年」と捉える見方が出てきた。

実際、世界最大の脅威に対し、アメリカがこれほど無防備だった時代はない。

中国の覇権主義への対処は、日米の国益に関わる最大の関心事である。にもかかわらず、なぜ今も、中国の台頭に手をこまねいているのか。対中包囲網の形成過程を丹念に見ていくと、「包囲網の構築を妨げるもの」があぶり出された。

 
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