国土交通省が6月、自動車メーカー5社で型式認証試験の「不正」があったと発表し、3社6車種に出荷停止を指示した。
その後、安全性能に問題はなく、出荷停止は解除されたが、トヨタに対しては別の7車種で新たな「不正」が判明したとして、初の「是正命令」が出された。
「不正」とされた事案のなかには、国の安全基準より厳しい条件で試験をしたのに、形式的なルールに従っていなかったことが「不正」とされたケースも含まれていた。
型式指定制度の課題とは何か。これをどのように変えていけばいいのか。本誌2024年9月号記事「型式認証試験「不正」の本質とは? 国土交通省は日本の自動車メーカーを守れ」で紹介した、自動車経済評論家の池田直渡氏へのインタビューの詳細版を2回にわたってお届けする。
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輸入車の安全基準はどのように担保されているか
池田 直渡
──輸入車に対しては、1車種あたり年間5千台までという制限はあるものの、簡易な書類審査だけで販売できる「輸入自動車特別取扱制度」があります。これを見ると、国内メーカーへの対応は厳しすぎるという印象もありますが。
池田直渡氏(以下、池田): これは日本独自のルールで、安全性の評価の面から言えばダブルスタンダードであることは間違いないですが、日本は世界的に見て輸入車がほとんど売れない国です。全販売台数のうち輸入車は6%ですから、国内メーカーと同じルールを義務付けたら輸入車は入ってきません。自由貿易と消費者の自由の観点から言えば、選択肢を一律に減らす規制は望ましいとは思えません。
とはいえ、このような輸入車への対応を見れば、国内メーカーに対する基準は厳しいとは言えますね。
完成検査員資格に厳しい基準を設けたことが「不正」とされたスバル
──2017年に、スバルが「資格を持っていない社員が完成検査を行っていた」として批判されていましたが、当時の吉永泰之社長は「完成検査員のハードルが高すぎた」と述べていました。あの背景には何があったのでしょう。
池田: あれは、スバルが「丁寧にやり過ぎた」ことが問題だったんです。「完成検査」とは、型式指定を受けた後、メーカーが選定した「完成検査員」が型式通りに組み立てられているかを確認するものです。この「完成検査員」の資格について、国交省は「技術のある者を選べ」としているだけで具体的なルールを何も決めていないんです。極論を言えば30分くらいの研修映像を見せて資格を与えても違反にはなりません。
ところがスバルはお国から預かった大切な認証のプロセスだということで、丁寧にOJT(職場内訓練)を行ったのです。指導員のもとで研修をして、実際に検査もさせてから正式な資格を与えたのですが、それが「不正」とされたのです。
「技術のある者」と言われても、初心者は先輩について、現場でOJTで学ぶしかないでしょう。これが許されないなら、どうやって技術を身に付けろというのでしょうか。
しかし、国交省的な「正解」は、30分の映像でも何でも見せて、「検査員の資格を与えます」と言ってから検査をすべきだったということです。とはいえ、少なくともスバルの善意を理解してあげてもいいのではないでしょうか。
スバルとしては違反や不正の認識はゼロだったはずです。「自分たちは丁寧にやっている」と自信をもっていたら「ダメです」と言われてしまったわけです。この「不正」で社長は責任をとって退任しましたが、ばかばかしいとしかいいようがないです。