全国で公開中

《本記事のポイント》

  • 脆く壊れやすい、母子家庭というガラス細工
  • 大人になり切れなかった若き父親の挫折と再生
  • 父親との絆を選んだ少女の勇気ある選択

母親の死によって、初めて父親ジェイソンと一緒に住むことになった12歳の少女ジョージー。反発しあい、互いに相手の必要性を認めることを拒んでいた2人が、次第に家族であることの意味や価値に目覚めていく姿をイギリス映画らしいユーモアとウィット、そして社会批判を取り混ぜて描いた作品だ。

本作でスクリーンデビューを果たしたローラ・キャンベルが主人公の少女ジョージーの複雑な内面とその成長を好演。また不器用な父ジェイソン役を、ハリス・ディキンソンが巧みに演じている。

脆く、壊れやすい、母子家庭というガラス細工

映画は、母親の病死によって母子家庭が崩壊するという絶望的な状況からスタートする。実際に母子家庭である方々にとって、「もし自分が死んだら、残された幼い子供はどうなってしまうのか」ということは、最も想像したくない事態だろう。

しかし、その最悪の事態が起きてしまった時、いったい子供はどうなるのか。その最悪の事態を回避するために何が必要なのか? 考えた末に、死の淵で母親が取った選択は、自分を捨てて育児から逃げた夫ジェイソンを呼び戻し、娘を託すという選択だった。

現在、世界の先進国では母子家庭はごくありふれた家族の形態になっている。しかし、この映画は、それを可能にしてきた"恵まれた社会福祉制度"という存在の功罪を問いかけているように見える。

映画中では社会福祉事務所が登場するのだが、極めて杓子定規で、家族の窮状に踏み込んでいくことができない全く無力なものとして描かれている。「いくら福祉制度が充実しても、子供の心を育み、親との絆とを強める力にはなり得ないし、結論的には不要なのだ」とでも言いたげなストーリーとなっているのだ。

幸福の科学・大川隆法総裁は『減量の経済学』のなかで、「今、『お金を撒かなければいけない。社会福祉を手厚くしなければいけない』と言っているのは、たいていの場合、『結婚して子供ができたが、離婚して生活保護を受けながら、パートみたいなので働いているお母さんだけの母子家庭』のような家庭が増えているからです。そこが多くなっているので、夫婦別姓になれば、さらにそれを推進しているような感じになるとは思うのです。自由だから、それは結婚・離婚を何回しても構わないとは思うけれども、その結果、あまり、国家が面倒を見ていかなければいけない人が増えていく傾向が強くなるのなら、ちょっと考えなければいけないなと思います」と指摘している。

戦後の西側世界を席巻してきた福祉万能主義に疑問を投げかける本映画は、福祉に頼ることが当たり前になりつつある今の日本人に鮮烈な目覚めを与えるものだ。

大人になり切れなかった若き父親の挫折と再生

母親からの必死の懇願により、スペインのイビサ島での能天気な暮らしを切り上げて戻ってきた父親のジェイソン。

見るからにやんちゃ坊主で、精神的には未熟な父親をハリス・ディキンソンが巧みに演じている。ジェイソンは12年ぶりに娘のジョージーと対面し、共同生活を始める。そして、父親としての自覚を少しずつ取り戻し、精神的に大人へと変化していくところが、この映画の一つの見どころになっている。

なぜ、ジェイソンは気ままな一人暮らしを捨てて、娘との共同生活を選択したのか。その背景には、娘ジョージーの、世の中に対する"いびつ"ともいえる見方に、驚きとショックを受けたところがあるのではないか。

母を亡くしてからジョージーは、福祉事務所を欺いて、ロンドン郊外のアパートにひとりぼっちで暮らしている。親友アリと自転車を盗んでは転売し、盗品売買で得たお金で家賃を払い続けているのだ。

映画の冒頭では、「It takes a village to raise a child. (子供は地域で育てるもの)」という言葉が現れるが、打ち消し線が引かれて、次に「I CAN RAISE MYSELF THANKS. (私は自立しているから大丈夫)」とそれを否定するような言葉が現れる。これは、自立という考え方に過度に傾斜したジョージーの心の声なのだろう。

また、ジョージーは片方の耳に補聴器をはめているが、これも人とのつながりを拒否するというこだわりから出てきた心因的なものなのかもしれない。ジョージーは、戻ってきたジェイソンに全くなつかない。

「家からいつ出て行くの」とそっけなく言うジョージーに対して、ジェイソンは思わず声を荒らげ、どなりつけてしまう。

しかしジェイソンは、ジョージーと打ち解けていくために、盗品売買のことを咎めることなく、逆に、自分の故郷への電車旅行にジョージーを誘う。そこで廃墟となった工場の跡地を2人で散策しながら、自分がどのような少年時代を過ごしたのかを語り、他愛もない遊びに興じるなかで、父娘との心の距離が次第に縮まっていく。このシーンはとても暖かく感動的だ。

父親との絆を選んだ少女の勇気ある選択

最後にジョージーは、父親ジェイソンとの暮らしを受け入れるのだが、自分だけで生きていけるという肩肘を張った姿勢から、父の存在に愛おしさを感じるまでの、微妙な心の動きを繊細に演じ分けたジョージー役のローラ・キャンベルの演技は出色だ。

子供の成長には、やはり父親という導き手が必要である。子供を無条件に受け入れる母親の慈しみと、父親のたくましさ、この2つを時間差はあったものの、共に得ることができたジョージーは、それだけでも恵まれた子供だと言えるだろう。

大川隆法総裁は「親子の関係も、偶然にできることは、まれなのです」として、親子の間にある魂の課題について次のように語っている。

親子の縁のなかにも、魂の教育が織り込まれています。家庭という問題集を解くために、親子の縁は設定されているのです。そのため、親が子供のことで苦しんだとしても、それもまた魂の問題集のなかの問題であることを忘れてはなりません。(中略)また、親にとって、子供は、自分の叶えられなかった夢を叶えてくれる、とても大切な"希望の木"でもあります。そのようにして、親子代々、連綿とロマンが語り継がれていくのです」(関連書籍『コーヒー・ブレイク』より)。

12年間も離れ離れになっていた父と娘が再会し、心を通わせていくというヒューマンドラマでありながら、精神的には未熟であっても、縁ある父親の方が社会福祉よりも子供にとってはるかに頼るべき存在であることを示した本映画は、これからの時代に必要とされる家族のかたちについて、一つのヒントを与えてくれる。

 

『SCRAPPER/スクラッパー』

【公開日】
全国公開中
【スタッフ】
監督:シャーロット・リーガン
【キャスト】
出演:ローラ・キャンベル ハリス・ディキンソンほか
【配給等】
配給:ブロードメディア
【その他】
2023年製作 | 84分 | イギリス

公式サイト https://scrapper.jp/

【関連書籍】

減量の経済学

『減量の経済学』

大川隆法著 幸福の科学出版

幸福の科学出版にて購入

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コーヒー・ブレイク

『コーヒー・ブレイク』

大川隆法著 幸福の科学出版

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【高間智生氏寄稿】映画レビュー

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