《ニュース》

豪中首脳会談が行われるなど両国の急速な関係改善が報じられる一方、中国包囲網の一環としてつくられた米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の失速が懸念されています。

米保守系シンクタンク・ハドソン研究所の上級研究員ジョン・リー氏(オーストラリア拠点)は10月25日、米フォーリン・ポリシー誌に「なぜAUKUSは行き詰まりに瀕しているか(Why AUKUS Is in Danger of Stalling)」と題し、寄稿しました。

《詳細》

米英はAUKUSの枠組みを基に、オーストラリアに原子力潜水艦を供与する計画を進めてきました。今年3月には、米英豪の3カ国で最先端技術を駆使した次世代原子力潜水艦の艦隊を創設する計画を公表。また2030年代には、オーストラリアが米ヴァージニア級原子力潜水艦を最大5隻購入するという方針も明らかにしています。

しかし米議会では、そもそもアメリカ本国において潜水艦の建造能力が不足していることなどから、オーストラリアに原潜を売却することへの懸念の声が上がってきました(米国防総省は議会の紛糾にかかわらず協定は実行されると強調している)。これを受け、オーストラリア側はアメリカに対して、原潜購入や武器の共同開発を可能にするための輸出規制改革が遅いことに不満を表明してきた流れです。

リー氏は中国抑止におけるAUKUSの重要性を強調した上で、アメリカ議会に輸出規制の改革を求めると同時に、オーストラリア政府に対し、自国の防衛強化に真剣に取り組む姿勢を示すことで米議会を説得する責務があるとしています。

リー氏が記事で言及しているように、オーストラリアのアルバニージー首相(労働党)は、原潜を巡る購入・艦隊創設の計画をめぐって党会議で、AUKUSがオーストラリアに数万の雇用をもたらすと強調。これに対しリー氏は、AUKUSの主要目的はあくまで安全保障であり、労働党が掲げる雇用創出の目的は二次的なものであるとし、アルバニージー氏の姿勢が米議会に懸念をもたらしているとしています。

その上でアルバニージー氏に向けて、「中国を抑止し、台湾やその他の地域に対する武力行使を回避する」というAUKUSの主目的を前提に据え、その目的を果たすうえでオーストラリアが必要とする具体的な国防強化に資金を投じ、起こり得るさまざまな事態に豪政府が関与する意志を明確に示す必要があると指摘。それによって、豪政府が「AUKUSの立て直しに本気で取り組んでいる」のだと米政府・議会を安心させ、オーストラリアに賭けることは正当なことであると、英米に示す必要があるとしました。

AUKUSが現実的な対中抑止力を持つのか、それとも単なるお題目に終わってしまうのか、今後の動きに注目が集まっています。

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