月刊ザ・リバティ2023年6月号「つぶれない経営─コロナ時代の経営心得─」では、厳しい時代だからこそ、お客様の心に寄り添ったサービスを行うことの重要性に迫りました。

今回は、クレームとの向き合い方と経営の関係について、民間企業や学校、病院、官公庁などから引っ張りだこの苦情・クレーム対応アドバイザーである関根眞一氏のインタビューの中で、本誌に掲載しきれなかった内容を3回に分けて紹介いたします。

3回目の今回は「お客様が、またお越しになれるようにするために」。

苦情を放置すると──お客様が、楽しく買い物する場所が失われる!

苦情・クレーム対応アドバイザー

関根 眞一

関根眞一
(せきね・しんいち)大手百貨店のお客様相談室長を皮切りに27年、「苦情対応」は7000件を超えている。著書に『となりのクレーマー』(中公新書ラクレ)など多数。

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となりのクレーマー
関根眞一 著
中公新書ラクレ

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教師はサービス業です
関根眞一 著
中公新書ラクレ

関根眞一氏(以下、関): 苦情・クレームへの対応は、お客様の立場で考えると、とても切実なものになります。例えば地方の百貨店の場合、お客様を怒らせてしまって、その店に買いに来られなくなると、お客様に迷惑をかけてしまう。なぜなら、都会と違って他に選択肢がないために、お客様が買い物をする場所がなくなってしまう可能性があるのです。

つくばの店舗で、売り場から「『うちのデパートに来ていて、何回か嫌な思いをしたから、もう来ないけど、苦情だけは言っておきたい』というお客様がいる」と聞いたので、「それはありがたいことだ」と思って、30代くらいの女性のお客様に話を伺ったことがありました。

その方は交通事故で足が不自由になっても、車は運転できるという方でした。「以前、こんな嫌な思いをして、それを我慢したら、また違うところで、嫌な思いをした」と、色々な苦情を並べられました。聞けば聞くほど、こちらに非があるようです。そしてその方は、「関根さんに一通りのことを言ったから気持ちは収まりました。もう、二度と来ませんが」と言い席を立とうとしました。

その時、私が「お住まいはお近くですか」と聞いたら、「ちょうど職場と自宅の中間なんです」とおっしゃる。「それは問題ですね」「どうしてですか」「◎◎様がお買い物をするところがなくなっちゃいますよね」「それはそうですよ。でも、ここにはもう来たくない」と言うので、「わかりました」と受け止めました。

「私が愛するこの町」の話から…

セットアップに向けて進むと、その方が街の自慢をするわけです。「ここは、すごい街なんです」と一生懸命喋ってくれて、「町の大きなホールに、東京から来たコンサートは別格」「つくばには大学や研究所があるので、博士が今、7000人ぐらいいる。そういう人たちは教養が高いので、音楽もよく聴いている。東京より、こちらがレベルは高い」といった話をされました。

その人は続けて「こういうお店もある」などと一生懸命話します。そして口を滑らせたのは、食べ物の話を持ち出したことです。「ドイツ料理だったら、こういうところがあるし、フランス料理はここがある、寿司屋はこういうとこもある」とおっしゃいました。グルメは単身赴任の私には得意分野です。

ここから、どう"対抗"しましょうか。「そうでしたか」では圧力負けします。