新型コロナウィルスの起源に関する論争が再燃しており、どうも中国側が押されているようにも見える。

WHOのテドロス事務局長も中国忖度を弱めた?

パンデミック発生から3年が経った3月11日、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は新型コロナの発生原因を突き止めることは道徳的な要請であり、あらゆる仮説を検討しなければならないと強調した(*1)。テドロスは「それは、科学上の急務であり、未来のパンデミックを防ぐためである。何百万人もの死者と新型コロナと共存する人々のためのものだ」とツイートしている。

振り返れば2020年初春当時、テドロス事務局長は中国に“忖度"してか、「パンデミック」というタームを避け続けた。ようやく、同年3月11日、WHOは中国発生の新型コロナが「パンデミック」だと宣言している。

しかしその後、しばらくしてWHOは「ウィズ・コロナ(コロナとの共存)」を掲げ、習近平政権による「ゼロコロナ政策」に関して批判的なスタンスを取った(バックにはアメリカの存在か)。

バイデン政権も起源追及へ法整備

アメリカでも、中国追及の動きが盛り返している。

今年3月20日、バイデン米大統領は超党派による「2023年“COVID-19"起源法」に署名した(*2)。同法は、中国の武漢ウイルス研究所と新型コロナの起源に関する「潜在的な関連性」を可能な限り情報開示して共有するという。

こうした動きに、中国も激しく反応している。翌21日、王文斌・中国外交部報道官は「現在、トレーサビリティに関する世界的な科学研究を妨げている真の理由は、アメリカの政治的な操作にある」と述べた。また、王報道官は「中国に関わる米国の関連法案は、事実を歪曲し、虚偽の情報を作り上げ、何の根拠もなく『(武漢ウイルス研究所)実験室漏洩説』を誇張している」とも主張した。

もっともアメリカ側の原因究明姿勢の足を引っ張ってきた事情もある。

米国立衛生研究所の下部組織、国立アレルギー・感染症研究所(当時、所長はアンソニー・ファウチ博士)は非営利団体の「エコヘルス・アライアンス」を通じて、石正麗(通称「バット・ウーマン」)率いる武漢ウイルス研究所の「コウモリ・ウイルス研究プログラム」に資金を提供している。

過去10年間、米国立衛生研究所は「エコヘルス・アライアンス」に370万米ドル(約5億円)を供与した。そのうち59万9000米ドル(約8000万円)は武漢ウイルス研究所のコウモリ・ウイルス研究資金として使用されている。

2021年初春、WHOの武漢調査チームのメンバーで「エコヘルス・アライアンス」代表、ピーター・ダザックは「ウイルスが中国の研究所から漏洩したという証拠はゼロだ」と断言した。

こうした怪しい構図に関しても今後、検証のメスが入るかもしれない。

近年、姿を見せていない石正麗

武漢ウイルス研究所関係者の動向も、注目されている。

実は、2020年新年早々、「武漢肺炎」が発生した後、石正麗は数日間眠れなかったという。自分の研究一つ一つを振り返り、彼女の実験室からウイルスが流出したのではないかと自問した。

ところが、同年2月2日、石正麗は“WeChat"で「2019年に発生した新型コロナは自然が人類に与えた非文明的な生活習慣に対する懲罰」と主張した。「私、石正麗は命にかけて、新型コロナと実験室とは何の関係もない。悪質なメディアの噂を信じ、広めている人達には、その口を閉じるよう忠告する」とまで言っている。

2021年6月15日、『ニューヨークタイムズ』紙は石正麗との質疑応答の電子メールを引用し「私(石正麗)の実験室でウイルスの毒性を高める実験をしたり、そのような協力をしたりしたことがない」と報道した。

けれども、石正麗は2018年に新型ウイルスの改変に成功したという論文を発表した。また、テレビのトークでも「重要な科学的成果」をあげたと自慢している。

最近、“WeChat"には、当初、質問者に「黙れ」と激怒していた石正麗が、この3年間、まったく姿を消しているという投稿があった。

だとすればいったいなぜなのか。彼女に何があったのか。あるいは今、何を考えているのか。

応酬は今後も激しくなる

さて、冒頭のテドロス発言を受けて、今年4月8日、中国国務院新聞弁公室は新型コロナのトレーサビリティに関する研究について記者会見を行った(*3)。中国の専門家3人は、2021年の「WHOと中国による第1段階のトレーサビリティには問題がなかった」と強調している。

他方、4月17日、共和党のロジャー・マーシャル上院議員は、Covid-19の起源に関する報告書を発表し、新型コロナのパンデミックは(中国の実験室からの)「2つの漏洩」の結果である可能性が「最も高い」と示唆した(*4)。

マーシャル議員が引用したのは、医学専門家のロバート・カドレックが起草した「Muddy Waters」と題された301ページの報告書である。なお、カドレックは空軍の軍医で、トランプ前大統領の政権下でワクチン開発イニシアチブ「オペレーション・ワープ・スピード」を率いていた。

コロナ起源をめぐるせめぎあいは、まだまだ続きそうだ。

(*1) 2023年3月12日付『苹果新聞網』
(*2) 2023年3月27日付『VOA』
(*3) 2023年4月9日付『人民日報』(第2頁)
(*4)2023年4月18日付『米国のスタンス』

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アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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